中国越境ECへの参入を検討している方は、中国越境ECの新規制を把握することが大切です。
中国越境ECに関する規定は、中国消費者のニーズに応じて更新されており、またその更新の頻度はかなり高いためです。
また、中国越境ECの新規制を把握することは、コンプライアンス対策になるだけなく、実は大きなビジネス機会になります。
この記事では、中国越境ECの規制に関する新情報、ビジネス機会やその対策について、紹介していきます。
中国越境ECの取引形態種類と関連規制
中国国内の自社通販サイトにて販売
中国越境ECの取引形態種類は、下記のように、3つに分類できます。
- 中国国内の自社通販サイトにて販売
- 中国外にある通販サイトにて中国向けに販売
- 中国のECサイトへ出店し販売
それぞれ関連規制も異なってくるため、各分類において注意すべき関連規制を紹介しています。
まず、中国国内の自社通販サイトを通じて販売する場合は、ICP(Internet Content Provider)登録が必要です。
ICPとは、中国国内のサーバを使ったすべてのウェブサイトに課せられている登録手続きを指します。
つまり、中国国内でウェブサイトを作る前に、中国政府部門への登録が必要なのです。
さらに、そのウェブサイトで通販を行う場合は、経営性ICPライセンスという特殊な資格を別途取得する必要があり、実務上、外資100%の会社が取得することは非常に難しいです。
つまり、中国でウェブサイトを立ち上げて、そのサイトで自社商品を販売することは、中国現地でのパートナーに株主として入ってもらい、かつ中国現地のコネクション使って初めて実現する方法と言えるでしょう
中国外にある通販サイトにて中国向けに販売
中国外にある通販サイトを通じて中国向けに販売とは、例えば、日本企業が、日本の自社HPを使って、日本から中国消費者へ直接商品を発送する形態を指します。
この形態で販売する場合、⾏郵税という特殊な税金が中国消費者に課されます。
行郵税とは、中国国外からの郵送貨物や携帯貨物に対して適用される税金で、輸入品に関わる税金(輸入関税、輸入消費税、ぜいたく品に課さられる税)を一括でまとめたものです。
行郵税の税率は、商品分類ごとに、13%、20%、50%の3段階に分けられており、⾏郵税額が50元(1,000円相当)以下の場合は、免税になります。
ここで、注意が必要なのは、⾏郵税として扱われないケースがあることと、規制強化が行われていることです。
まず、⾏郵税として扱われないケースについて、販売する商品の内容や数量によっては、中国税関側で、個人消費ではなく商用利用と判断され、一般貿易として扱われることがあります。
一般貿易として扱われた場合は、貿易会社が輸入する際の取り扱いと同じになり、高い税金が課せられるだけでなく、輸入に関する多くの必要書類提示も必要になります。
税金額や必要書類によっては、中国消費者の手元に届けることができず、中国消費者とトラブルのもとになることがあります。
中国越境ECにおいては、販売者側が申告して税金を納めていましたが、販売者側が申告をしなくても、中国通関のチェックを逃れれば、納税する必要がなかった時期がありました。
ところが、現在では、中国側の規制強化によって、そのようなケースは非常に少なくなってきているのが実情です。
中国のECサイトへ出店し販売
日本企業が中国ECサイトへ出店する方法は、日本企業の中国現地法人が出店する方法と日本企業が直接出店する方法の2つがあります。
いずれの場合も、中国のECサイトの規制に従い、出店することになりますが、日本企業が直接出店する方法は比較的厳しい規制に従う必要があります。
例えば、中国版TikTok抖音(Douyin)のECモールへ出店するケースで考えてみましょう。
日本企業の中国現地法人が出店する場合は、保証金を中国版TikTok抖音(Douyin)ECモールへ支払う必要がありますが、その金額は4,000元(8万円相当)~です。
一方、日本企業が直接出店する場合、中国のどの保税区を使うかによって金額が異なりますが、保証金は10万元(200万円相当)、追加で30万元(600万円相当)の前払税金を支払う必要があるケースもあります。
しかしながら、実際、中国越境ECビジネスに参入している日本企業が利用しているのは、日本企業による中国のECサイトへ出店です。
その理由は、税務規制や通関規制上の取り扱いが、最も優遇されているためです。
中国越境ECに関する最新重要規制
中国のECサイトへ出店する場合の優遇政策
中国のECサイトへ出店が、最も人気のある中国越境ECビジネスの参入方法であることはわかりましたが、具体的にどのような優遇内容でどの程度優遇されているのでしょうか。
優遇内容については、税関輸入法定検査が不要になること、初回輸入時の認可が不要になること、税金費用が小さくなることの3つがあります。
まず、税関輸入法定検査が不要になることについて、通常、中国に商品を持ち込む際は、売買契約書、インボイス、パッキングリスト、船荷証券などの通関書類の提出が必要です。
ところが、中国のECサイトへ出店形態であれば、これらの書類の提出が免除されます。
この優遇措置は、通関書類の提出が困難な日本企業にとっては、大きなメリットであり、中国越境EC参入へのハードルは大きく下がります。
次に、初回輸入時の認可が不要になることについて、本来、中国に初めて入れる化粧品や保険食品などは、中国政府部門への登記が必要で、櫃書類などもかなり膨大で時間がかかります。
中国のECサイトへ出店形態であれば、これらの登記が免除されます。
最後に、税金費用が小さくなることについて、中国のECサイトへ出店形態であれば、輸入関税0%、輸入消費税増値とぜいたく税が70%(30%の減税)に減額されるという税務上の優遇措置があります。
商品によっては、輸入関税は30%以上かかりますので、この優遇措置は、日本企業にとっては、商品表示価格が大きく下がるため、非常に大きな優遇と言えます。
中国越境ECのポジティブリスト
中国のECサイトへ出店する場合の優遇政策は、実はすべての商品に適用されるわけではありません。
適用条件が明確に定められていますので、最新規制も交えながら、紹介していきますね。
具体的な適用条件は、下記の通りです。
- 中国国内で登記されている企業が運営する中国越境ECプラットフォームを利用していること
- 商品がポジティブリストに該当し、且つ個人使用目的であること
- 中国税関が取引・支払・物流の電子データを監督管理できるルートを経由して販売していること
- 1回の取引金額が5000元(10万円相当)以下であり、且つ個人の年間取引金額が2万6000元(52万円相当)を超えていないこと
仮に、上記の条件を一つでも満たさなかった場合には、優遇適用は受けることができません。
優遇適用ができなかった場合は、結果として、貿易会社が取引するときと同じ比較的高い税額支払いや必要書類提出が必要になってきます。
また、上記2つ目の条件であるポジティブリストとは、優遇措置を受けることができる商品リストを指します。
現在2023年5月時点では、1,413品目あり、直近では、2022年3月1日に改訂されています。
中国消費者の需要に合わせて、数年に一度のペースで改訂されており、2022年3月に新たに加えられた商品リストは、以下の通りです。
スキー用具、家庭用食器洗機、トマトジュース、粉からし、人毛、合成繊維製のウィッグ、時計付きラジオ、金属製ではないストラップとその部品、ビデオゲーム用のコントローラーと関連設備、ゴルフ関連グッツ、写真・映像機器または録音・録画再生機器専用の三脚等
より具体的には、下記の中国政府部門の公式サイトから見ることができますので、興味のある方はご覧ください。
現時点でポジティブリストに入っていなくても、中国消費者の需要が大きくなれば、今後リストに追加される可能があります。
中国越境ECビジネス参入を検討している方は、要注目の規制になるでしょう。
その他の中国越境ECに関わる新規制
中国越境ECビジネスを行う場合、中国越境ECに関わる様々な規制にも気を配る必要があります。
中国国外EC事業者も適用範囲になる中国電子商務法、通信やデータ保護など情報セキュリティに関する規則を定めた中国サイバーセキュリティ法、禁止用語を規制している中国広告法などがあります。
例えば、中国広告法は、日本では類似の法律が見当たらない、中国独特の法律です。
中国では、広告活動の規範化及び消費者保護を目的として、商品広告に対し禁止用語が定められています。
違反した場合には、20万元~100万元(400万円~2,000万円相当)以下の罰金、営業停止等のリスクがあります【中华人民共和国广告法】。
具体的には、国家機関代理、「国家級」「最高級」等のナンバーワン、恐怖等をイメージさせる用語などが使用禁止になっています。
さらに、これらの禁止用語は、日ベースで変化しており、法律に明るい中国人であっても、追いつけないほどです。
中国で禁止用語などを見分けることができるソフトウエアなどがありますので、それらを活用するなどして対策しておくと良いでしょう。
中国越境ECの新規制の対策とビジネス機会
規制強化さえも日本企業にとっては有利
中国越境ECに関する規制緩和は、日本企業にとって有利であることは間違いありません。
一方で、中国国内の規制強化も、日本企業にとって有利になることが多いです。
前述したとおり、基本的に、規制変更は中国消費者のニーズや保護に基づいて、行われています。
実際、規制強化により、悪徳業者の排除や中国越境ECプラットフォームの健全化が行われ、越境ECの取引の増加と正規ブランド店舗が稼げる状態に変わってきています。
つまり、日本企業にとって、中国越境ECの新規制に対応することは、コンプライアンス対策になるだけなく、大きなビジネス機会になっているのです。
また、中国越境ECの新規制は、中国政府による新規制と各種中国国内ECプラットフォームによる新規制に分類できます。
中国政府による新規制
まず、中国政府による新規制について、直近の新規制と日本企業への影響を紹介したいと思います。
2022年7月13日、上海市市場監督管理局(中国上海市のビジネス全般を管理する政府部門)は、「上海市ライブマーケティング活動のコンプライアンスに関するマニュアル(中国語:上海市网络直播营销活动合规指引)」を公布しました。
【中国上海市市場監督管理局HPから抜粋】
このマニュアルでは、ライブコマースにおける、虚偽取引によるさくら行為、虚偽宣伝、不合理な最低価格契約などに関するコンプライアンス対応を強化することが記載されています。
具体的には、下記のようなコンプライアンス対応の強化を求めています。
- ライブコマースプラットフォーム運営者は、プラットフォーム参加者に対し、最低価格での販売を求める契約などを要求してはならず、販売する商品やコンテンツの事前のチェックを強化すること。
- 医療機器、医薬品、健康食品など、広告の事前審査が必要な商品やサービスは、ライブコマースでの販売を禁止。
- 中国越境EC輸入商品に対しては、ライブコマース配信者は、安全性などに関する責任は中国消費者にあること、中国消費者はウェブサイトを通じて中国語の電子ラベルを入手できること、個人使用のみを目的とし転売することはできないことの通知義務を負う。
- ライブコマースプラットフォーム運営者は、コンプライアンス違反行為をしたインフルエンサーに対して、ブラックリスト管理し、適時公開する必要がある。
これらの規制は、一見厳しいように見えますが、ECプラットフォームの健全化に向けた規制強化です。
本当の商品力で勝負しようとする日本企業にとっては、有利な規制強化と言えるでしょう。
各種中国国内ECプラットフォームによる新規制
次に、各種中国国内ECプラットフォームによる新規制について、中国のECサイトへ出店する場合は、その出店サイト内の新たな規制があります。
例えば、中国版TikTok抖音(Douyin)のECプラットフォームでは、定期的に運用ルールが変更されています。
直近ですと、薬品を扱う店舗に対し特定薬品の取り扱いの禁止や制限を設けたこと、違反した店舗に対する罰則の強化などがあります。
ECプラットフォームによる新規制は、中国国家規定変更に伴う変更とECプラットフォーム独自のルール変更によるものと2つに分かれます。
中国国家規定変更に伴う変更であれば、中国ニュースでも取り上げられることが多いですが、ECプラットフォーム独自のルール変更の場合は、よく注意していないと、大事な情報を見逃すリスクがあります。
最悪、知らない間に違反していたということにもなりかねません。
各種プラットフォームの運用ルールは定期的にチェックしておくのがおすすめです。
中国版TikTok抖音(Douyin)でしたら、下記のサイトから直近のルール変更についてチェックできます。
本周新规速递(2023.5.18)-抖音电商学习中心 (jinritemai.com)
多くのプラットフォームでは、ルール違反した場合、サイトのランク引き下げやSEO対策上不利な措置が行われます。
コンプライアンス対応は、商品プロモーションと同様に重要です。
国際比較すると、日本企業はルールを重んじる傾向がありますので、このようなルール変更に伴うコンプライアンス対応は、日本企業にとっては有利かもしれません。
中国越境ECの新規制のまとめ
日本企業が中国越境ECに参入するにあたっては、中国規制をよく理解しておくことが大事です。
特に、新規制は、中国消費者の需要を鑑みて公布されていることが多いため、コンプライアンス対応だけでなく、新たなビジネス機会をとらえることにもつながります。
また、中国の規制強化の動きは、必ずしも日本企業にとって不利なわけではなく、中国越境EC市場の健全化につながり、結果として、本当の商品力で勝負しようとする日本企業にとっては有利になっています。
最後に
以上、中国越境ECの規制に関する新情報、その対策やビジネス機会について、解説しました。
弊社は現在、中国版TikTok抖音(Douyin)・小紅書(RED)を活用した中国SNSの運用代行や、中国への越境ECの支援などのサービスを展開しております。
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