多くの中国エコノミストやインバウンド事業専門家が、2024年に中国からのインバウンド観光客は完全復帰すると見込んでいました。
果たして、結果はどうだったのでしょうか?
もし復帰していなかったとしたら、いつから本格復帰するのでしょうか!?
そこで、今回は中国からのインバウンド観光客はいつから本格復帰というテーマで、中国現場の情報を交えながら、紹介します。
中国からのインバウンド観光客の現状
中国人観光客の本格復帰とその背景
中国からのインバウンド観光客は、2024年で本格的に復帰しています。
中国国家移民管理局の最新データによると、2024年上半期の中国人海外旅行件数は前年比で約150%増加しました。
この回復は、新型コロナウイルスの感染状況が安定し、旅行規制が大幅に緩和されたことに起因します。
特に、日本は中国人観光客にとって近隣でありながら文化的魅力が強い目的地として注目されています。
日本政府観光局(JNTO)の発表された月次データを基に判断すると、2024年1月から3月までの訪日中国人観光客数は、コロナ前である2019年同期比で50‐60%まで回復しました。
ところが、4月頃から2019年同期比で70%以上の回復を見せ、2024年11月では90%近い回復を見せていました。
【2019年・2023年・2024年の訪日中国人推移比較、VECTOR CHINA Marketingコラム より抜粋】
本格復帰だが完全復帰ではない理由とその背景
本格復帰だが完全復帰ではない理由
本格復帰ではあるのですが、厳しい目でいえば、完全復帰ではありません。
韓国やアメリカなどからの訪日客数は2019年比では100%を上回っています。
一方、中国は100%にまで到達していない状態です。
この原因は、日本にあるわけではなく、中国側にあると考えられます。
その大きな理由は、中国人の海外渡航者数が回復していないことがわかっているからです。
中国政府文化旅行部門からの最新データによれば、2024年上半期の時点で、コロナ前である2019年比較では、海外渡航者数が74.5%までしか回復していないのです。
完全復帰していない理由の背景
なぜ海外渡航者数が完全回復していないのかについての公式意見やデータは見当たりませんでしたが、中国国内の経済環境が関係していると考えられます。
実は、中国国内の景気はあまりいい状態ではないのです。
2024年の中国のGDP成長率は約5%と予測されており、消費や総資本形成が想定より伸びていません。
特に、民営企業によるインフラ整備や不動産不況の影響で、経済が低迷します。
中国現場での景気感は「公表されている経済統計よりずっと悪い」と感じる人が多いも事実で、店舗の客足は大幅に減少しています。
さらに、価格競争が激化し、デフレ状態が続いています。
中国政府は、不動産ローンの引き下げ策や商品購入補助金など様々な景気刺激策を行っており、一定の効果はあるものの、大きな景気回復には至っていないという状態なのです。
このような状態ですから、海外旅行へ遊びに行こういう消費者層は限定され、海外渡航者数は完全回復していないのです。
むしろ、海外渡航者数の回復率が74.5%で、日本への中国旅行者数の回復率が90%近くあれば、日本は非常に頑張っている方だと言えるでしょう。
今後いつから完全復帰するのかという問題については、中国経済が関連するため、非常に読みにくい状況であると言えます。
いつから完全復帰するのかを含む中国経済の動向については、別の機会にご紹介できればと思います。
観光ニーズの変化:個人旅行とデジタル依存の増加
中国の海外渡航者数の母数が多少減っていても、その限られた母数の中で多くの中国人を呼び寄せることはできます。
多くの中国人を呼び寄せるためにも、コロナ前後でわかる中国人観光客の特徴を見ていきましょう。
2024年の中国人観光客の特徴として、団体旅行から個人旅行(Foreign Independent Tour)へのシフトが挙げられます。
観光庁などの数多くの調査レポートでは、訪日中国人観光客の過半数が個人旅行を選択していることが明らかになりました。
また、SNSやオンラインプラットフォームを通じた情報収集が主流となり、小紅書(RED)や中国版TikTok抖音(Douyin)での「旅行体験」関連投稿することが中国では一つのトレンドです。
たとえば、地方観光地では富士山や京都が注目を集めています。
特に、小紅書(RED)で「#富士山観光攻略」「#日本文化体験」というハッシュタグが数百万件の投稿を記録し、SNS上での話題性が旅行先選びに直結している状況が確認されています。
【#富士山観光攻略 で4.9万いいねを獲得した小紅書(RED)の投稿】
さらに、中国人観光客の興味は、物理的な観光地の訪問だけでなく、日本の生活文化体験にまで広がっています。
具体的には、茶道体験、寿司作りのワークショップ、和菓子作りなど、深い文化的価値を提供するアクティビティが人気を博しています。
中国人観光客が日本を選ぶ理由
2024年において、日本は中国人観光客にとって特別な魅力を持つ旅行先であり続けています。
その理由には、以下のポイントが挙げられます。
高品質な日本製品への信頼感
日本製品やブランドへの信頼は根強く、特に家電、化粧品、伝統工芸品が人気です。
2024年の観光局などの統計では、中国人観光客の消費金額のうち、約40%がこれらの商品購入に充てられていると報告されています。
安全性の高さ
日本は世界的にも安全性の高さで定評があります。
実際、中国国内の調査(2024年、中国旅行観光研究所)によると、日本は「旅行先として安全な国」として高い評価を受けています。
多様な観光資源
東京や大阪の都市部だけでなく、北海道の自然、九州の温泉、四国の伝統的な町並みなど、多様な体験ができることも選ばれる理由の一つです。
実際、中国SNS上では、「#日本旅行攻略」などといったキーワードがトレンド入りしており、訪日前から詳細な情報収集を行う消費者が増えています。
こうした背景から、2025年の訪日観光市場はさらに拡大する可能性が高いと言えるでしょう。
中国人観光客を引き寄せるための効果的なプロモーション戦略
春節や大型連休を狙ったキャンペーンの展開
中国オンライン旅行予約プラットフォームである飛猪からの公表データによれば、2024年の春節(旧正月)期間中の海外旅行の予約数は直近4年で最多であり、前年同期比で約10倍に達しました。
春節などの連休は、インバウンド業界にとって、書き入れ時なのです。
具体的な成功事例として、大手百貨店では、春節に合わせた限定商品と特典を打ち出しました。
特に、赤と金を基調とした特別パッケージの化粧品や、限定数量の和菓子セットが中国SNSで話題となり、春節期間中の売上は前年同期比で150%増加しています。
このように、春節や国慶節などの重要なタイミングに合わせたキャンペーンは、特別感を訴求できるため、中国消費者心理を刺激する有効な手法です。
中国SNSと越境ECを活用したアプローチ
キャンペーンを成功させるには、SNSを活用した事前プロモーションや、訪日中の特典提供を効果的に組み合わせることが重要です。
中国人観光客の情報収集は、中国SNSや越境ECを通じて行われることが増えています。
特に、小紅書(RED)、中国版TikTok抖音(Douyin)、wechat(微信)などのプラットフォームは、訪日前の情報収集や口コミ確認において欠かせない存在です。
例えば、小紅書では「#日本必買商品」や「#大阪グルメ」といったハッシュタグが2024年にトレンド入りし、関連コンテンツの広告効果が高い時期がありました。
また、越境ECでは実際店舗などが積極的に日本の商品を中国に展開し、旅行前に購入された商品が訪日旅行中の興味につながるケースも増えています。
成功事例として、ドラッグストアであるマツモトキヨシは、中国人観光客向けに小紅書(RED)やwechat(微信)などで「日本の必買アイテム特集」を展開しました。
これにより、中国版TikTok抖音(Douyin)で取り上げられた動画が2万いいねを突破し、訪日中の購入意欲を大きく高めました。
【中国版TikTok抖音(Douyin)で取り上げられた動画】
オンラインとオフラインを連携させたプロモーション
オンラインプロモーションをオフライン体験と連携させることも重要です。
たとえば、中国SNSでの広告を見た観光客が、訪日後に実店舗でその広告の商品やサービスを体験できる仕組みを構築することで、購買につながりやすくなります。
誰もが知る日本のある高級腕時計ブランドは、SNS広告を活用して日本でのショールーム訪問を促進するキャンペーンを展開しました。
訪日前に小紅書(RED)などで「日本で体験する高級時計ツアー」として話題になり、実際にショールームを訪れた顧客の半数以上が購入につながりました。
また、実店舗では、WeChat PayやAlipayを導入することでスムーズな決済体験を提供することも重要です。
これにより、訪日中の消費者満足度が向上し、購買意欲のさらなる促進が期待できます。
中国人観光客をリピーターにするための施策
中国人観光客を引き寄せるための効果的なプロモーション戦略がわかったところで、次はその観光客をリピーターにする施策をご紹介しましょう。
個別対応による信頼関係の構築
訪日した中国人観光客をリピーターにするためには、一人ひとりのニーズに応じた個別対応が欠かせません。
一度日本を訪れた中国人がよく言うコメントや再度日本を訪れる理由として最もよく挙げられるのが、「接客の質」です。
成功事例として、大阪の高級旅館では、中国人観光客向けに専用コンシェルジュを配置し、WeChat(微信)を通じて事前相談や滞在中のサポートを個別に受けられるように工夫しました。
このサービスにより、顧客満足度が大幅に向上し、リピーター率は前年の約1.5倍に達しました。
今後、個別対応を効率よく実現するためには、AIチャットボットなどの最新AI技術の導入も有効になるでしょう。
文化体験を通じた特別な思い出の提供
最近の中国人観光客は、観光だけでなく日本文化を深く体験したいというニーズを持っています。
中国メディアなどの各種調査によれば、訪日中国人観光客の多くが「日本文化の体験」を求めていることがわかっています。
実際に、和服や武道、和食などを体験するというのが非常に人気です。
例えば、目の前で和菓子職人が作ってくれた和菓子バーが中国SNSで大きくヒットし、多くの訪日中国人観光客を呼び寄せました。
【漢民族の服を来て和食バーで食事をするコンテンツが大ヒット、小紅書(RED)より】
そのコンテンツを見た中国ユーザーが、自分も体験したいと訪日します。
そして、彼女らがさらに自分で動画を撮影して、中国版TikTok抖音(Douyin)・小紅書(RED)などの中国SNSでその様子を投稿し、顧客が顧客を呼ぶスパイラルが出来上がったのです。
さらに、関連コンテンツを見てみると、中国文化と和菓子のつながりなどを知ることができ、深く知れば知るほど、またやってみたいと思わせ、リピーターも絶えなくなるのです。
このような体験型プロモーションは、顧客に特別感を提供し、リピーター化を促進する有効な手段です。
ポスト訪日後のフォローアップ施策
訪日後のフォローアップは、リピーターを確保する上で非常に重要です。
旅行後に継続的な関係を築くために、WeChat(微信)や小紅書(RED)を活用して情報提供や特別なオファーを発信することで、再訪のきっかけを作ります。
非常にうまく行っているのが、マツモトキヨシです。
マツモトキヨシは、店舗でショッピングを楽しんでくれた中国人に対し、継続的に関係を維持できるよう、微信(WeChat)の公式アカウントなどへの誘導もきちんと行われています。
例えば、微博(Weibo)や微信(WeChat)の公式アカウントでフォロワーになると、追加割引を行うというキャンペーンを行っています。
中国観光客が中国に帰った後でも、プロモーションの通知を受け取り、越境ECサイトで気軽にショッピングができるようにしています。
【マツモトキヨシの越境ECサイト】
実際、微信(WeChat)の公式アカウントを見ると、定期的に動画なども更新しており、中国人が買いたくなる仕組みが構築されていることがわかります。
さらに、越境ECで良く購入される商品やコメントなどを分析し、日本の実店舗の品ぞろえやキャンペーン企画の際に活用するなど、ECコマースと実店舗運用によるシナジー効果も出ています。
これにより、訪日後もブランドへのロイヤルティが向上し、再訪時の購買意欲を高める結果につながっているのです。
最後に
以上、中国からのインバウンド観光客はいつから本格復帰というテーマで、中国現場の情報を交えながら、紹介しました。
中国人観光客をリピーターにするには、単なる商品やサービスの提供にとどまらず、彼らの心に響く体験やフォローアップを行うことが重要です。
個別対応、文化体験の提供、ポスト訪日後の施策を組み合わせることで、顧客との長期的な関係を築き、インバウンド業界のさらなる成長を実現しましょう。
中国の現状やトレンドなどを把握したうえで、戦略を考え、マーケティングを行うことが大事です。
今回の記事でご案内した内容は、あくまで現時点の弊社の分析に基づくものです。
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