現在、購買力を増し続けているのがZ世代です。
日本でもZ世代のマーケティングが進んでいますが、中国でも若年層のマーケティングを重視するブランドが増えてきています。
特に、中国のZ世代は独特の世界観や価値観を持っているため、中国独自のトレンドや成功事例を知っておく必要があります。
そこで本記事では、中国若年層に刺さるブランド戦略から中国ビジネスの最新成功事例まで一挙に紹介します。
情感経済の台頭——Z世代消費の核心

心の充足を求めるZ世代
中国のZ世代(1995-2010年生まれ)の消費行動は、従来の「機能重視」から「心の充足」へと劇的にシフトしています。
「心の充足」を満たすための消費は、中国語では「情感消費市場」、日本語では「エモ消費」と呼ばれており、「emotional(エモーショナル)」を語源として、心に響いた時や深く感動した時などに消費することを指しています。
中国において、2025年の「情感消費市場」規模は2兆元を突破する見込みで、前年比28%増という驚異的な伸びを見せています。
中国消費者協会の調査では、消費意思決定において「情緒的満足度」を第一基準とする若者が40.1%に達していることもわかっており、今後も大きくのびる市場として注目されています。
熱狂的な缶バッチ集め
中国Z世代の世界観や消費価値観がわかる象徴的な事例として、バンダイナムコが中国最大のゲームイベント「ChinaJoy」における、中国Z世代のキャラクターグッズへの熱狂ぶりが挙げられます。
そのイベントでは、推しキャラ(自分が好きなキャラクター)の缶バッジの全種類を集めるために、1か月分のアルバイト代を費やすような熱狂的な中国人学生がたくさんいました。
このような行動の背景には、キャラクターを通じた「自己表現」と「コミュニティへの帰属感」という深層心理が潜んでいます。
この現象は中国の街中でも見ることができます。
例えば、中国合肥のショッピングモールでは、等身大キャラクターパネルと写真を撮る若者の列が絶えません。
「推しキャラと一緒にいたり、グッズを持ったりすると孤独感が和らぐ」と語る10代女子の言葉に、Z世代の心理が凝縮されていると言えるでしょう。
痛バッグ現象
さらに興味深いのは「痛バッグ現象」です。
「痛バッグ」とは、好きなキャラクターの缶バッチをたくさんつけたバッグを指します。

【痛バッグ(中国語:痛包)、好きなキャラクターの缶バッチなどを大量に付けたバッグ】
「痛バッグ」を持って、キャラクターグッズを身につけた者同士が無言のうちに親近感を抱く行動は、キャラクター商品が「共感のパスポート」として機能しています。
そのような現象を「痛バッグ現象」と呼び、日本発祥のこの現象は、中国Z世代の間でも流行っています。
中国若年層に刺さるブランド戦略~共創、共感、生態系

Z世代消費の核心が理解できたところで、中国若年層に刺さるブランド戦略を具体的に考えていきましょう。
消費者が主役の時代——「価値共創」の革新モデル
中国Z世代がブランドに求めるのは、完成品の受け取りではなく創作プロセスへの参画です。
好きなキャラクターやブランドと共に価値ある物を創造していくプロセスへの参加が重視されているのです。
この創作プロセスへの参画が、中国Z世代のニーズの核心である「自己表現」や「コミュニティへの帰属感」につながっています。
中国の老舗スキンケアブランド「郁美净」が2025年に展開した「棱角(レンジアオ)プロジェクト」はその好例といえます。
青少年向けニキビケアシリーズ開発にあたり、全国の大学生を対象に学院賞クリエイティブコンテストを実施しました。

【2025年7月30日に行われた郁美净の棱角プロジェクトのコンテスト式典】
コンテストで受賞した中から、実際に商品が生まれているのです。
郁美净のプロジェクトは、Z世代の共創を大事にする価値観を見事に取り入れています。
共感を紡ぐブランド戦略——成功事例に学ぶ「心のつかみ方」
共感を紡ぐブランド戦略が、「コミュニティへの帰属感」を生み出し、結果的に中国Z世代の心を掴んでいます。
中国老舗鴨肉加工メーカー「絶味鴨脖」
そのブランド戦略の好例が、鴨の首を使ったスパイシー料理を得意とする中国老舗鴨肉加工メーカー「絶味鴨脖」の取り組みです。
「絶味鴨脖」は2024年、Z世代に人気のラップ番組『新説唱』で生まれた流行語「君の首筋が美しい、昨夜食べた絶味の鴨の首みたいに」を瞬時にマーケティングに転用しました。
その後、Z世代に人気の出演者・范丞丞を起用した「君の首筋は僕の絶味」キャンペーンで、Z世代の心を鷲づかみにしたのです。

【范丞丞を起用した「君の首筋は僕の絶味」キャンペーン】
さらに、2025年のバレンタインには画期的な商品「鳕鱼玫瑰(タラで作ったバラ型の加工食品)」を開発します。

【鳕鱼玫瑰(タラで作ったバラ型の加工食品)】
食用バラの花束というコンセプトで「実用的なロマンティシズム」を提案し、SNSで体験モニターを募集しました。
ユーザー生成コンテンツ(UGC)が爆発的に拡散されると同時に、北京・上海など7都市で路上配布イベントを実施し、若者が共感しやすい環境や雰囲気を作り上げたのです。
中国産アニメIP『喜羊羊与灰太狼』の展開
「情感価値」を具現化する別の手法として、中国産アニメIP『喜羊羊与灰太狼』の展開も参考になります。
中国上海市の愚園路という場所にオープンしたコンセプトカフェ「咩咩Pop」では、中国産アニメIP『喜羊羊与灰太狼』のファンによる創作メニューを実際のメニューに採用する取り組みを始めています。

【中国上海・愚園路にオープンしたコンセプトカフェ「咩咩Pop」】
実際に、来店客がキャラクターと会話しながら新商品開発に参加できる仕組みで、多くのファンを虜にしています。

【来店客が新商品開発に参加できる】
店内外の壁面にはファンの提案商品が展示され、人気作品は実際のメニューやグッズに採用される仕組みです。
このイベントは、中国Z世代の求めている「自己表現」と「コミュニティへの帰属感」という深層心理をうまくとらえていると言えます。
結果として、このカフェは連日大盛況です。
さらに、『喜羊羊与灰太狼』の女性ファン比率は80%に達し、中国若年層が90%を占めるまでになり、IP自体のリブランディングにも成功しています。
生態系の構築——「単発ヒット」から「生活浸透」へ
中国で大きく成功しているブランドは、生態系の構築でうまくいっています。
つまりZ世代の生活領域への浸透し、継続的に商品を利用させる仕組みをうまく構築しています。
具体的には、自動車・乳製品・茶飲料などの多くのブランドが、IPとコラボレーションし、大きな成功を収めています。
中国ローカルの喫茶店
例えば、中国ローカルの喫茶店では、『浪浪山小妖怪』という中国Z世代に人気なIPとコラボし、Z世代の集客に成功し、売り上げを大きく伸ばしています。

【『浪浪山小妖怪』のキャラをイメージしたお茶飲料】
多くのブランドがこのようにZ世代に人気なIPなどとコラボレーションし、アニメ鑑賞という「点」の体験から、朝のコーヒーカップ、通勤時の車内空間、オフィス商品まで、人気IPと商品がセットで中国Z世代の生活リズムに溶け込む生態系を構築しています。
結果として、ブランドの認知度と売上を大きくのばしているのです。
アウディ
中国制作のオリジナル近未来SFアニメ『霊籠』とアウディの提携は、さらに進化形です。
単なる広告を超え、共同で制作した連動CMがSNSで3000万回再生を突破しています。

【アニメ『霊籠』とアウディの提携コマーシャル】
アウディの「未来技術」とアニメ『霊籠』の「ディストピア世界観」が融合し、両ブランドの価値を相互に高め合うことに成功しています。

【CMで大ヒットした実際の自動車】
中国Z世代は『作品を観る』から『世界に住む』へ移行しており、IP活用の本質は没入型体験の提供にあるとも言えるでしょう。
日本企業が実践すべき戦略

中国Z世代の心をつかむには、共創、共感、生態系の構築が大事であることがわかったと思います。
そこで、ここからは、日本企業や日本ブランドが中国市場で実践すべき戦略について、具体的に紹介していきましょう。
日本ブランドが中国で成功するためには、自らのコアバリューを堅持しつつ、中国現地の文化脈絡と中国Z世代消費者の情感に寄り添う「柔軟な現地化」が求められます。
それは単なるビジネス戦略ではなく、異文化との対話を通じて自らも変容するプロセスとも言えます。
具体的には、次の3つの実践戦略です。
中国ニーズの理解
日本ブランドが中国市場で持続的な成長を実現する鍵は、中国現地ニーズに基づく商品開発にあります。
無印良品(MUJI)の戦略はその好例です。
2019年以降、無印良品(MUJI)は生活雑貨の70%を中国市場向けに開発し、気候特性や文化的嗜好に応じた商品群を投入しています。
例えば、杭州の龍井茶をモチーフにした香り製品や敏感肌向けスキンケアシリーズは、機能性と中国文化への共感を両立させました。
実は、中国Z世代には、「実用性」と「情緒的価値」の二重追求があります。
彼らは単なる「日本製」のブランド力よりも、「自分たちの生活課題を解決してくれるか」を重視するのです。
無印良品(MUJI)が敏感肌向けスキンケアシリーズで成功したのも、成分安全性へのこだわりが中国Z世代の消費者の肌質課題にうまく答えたためです。
無印良品MUJI中国商品開発責任者は、「現地化とは商品の移植ではなく、文化の翻訳である」と中国ビジネスおける重要な発言をしています。
少し理解が難しいですが、この言葉が示すように、日本的良さをそのまま中国現地に売りつけるのではなく、中国のニーズを理解することが重要であることを示しています。
中国文化への適合—日本的ブランド哲学と中国伝統の共生
無印良品MUJI中国商品開発責任者の発言を借りれば、中国ニーズを理解できた後は、日本から中国への文化的翻訳をしながら、商品開発することが大切です。
実際に、2025年7月、杭州にオープンした無印良品MUJIの新店舗はそれを実現しています。
空間デザインの文化転換
廃棄された古材を再利用した内装を基調に、中国伝統の構造や雰囲気をモダンに解釈して設計されています。

【中国伝統の構造や雰囲気をモダンに解釈して設計されている、RED(小紅書)より】
具体的には、1階の木製背景壁は呼吸感を生み出しています。
さらに、店内は、無印良品MUJIの「自然と共生」という哲学と中国の「天人合一(天と人との結合)」思想を見事に融合させています。
限定品の文化符号化
無印良品MUJIの新店舗では、緑茶で有名な中国の西湖をモチーフにした緑茶香水など、「地域限定商品」が文化アイコンとしても人気を集めています。
これらは単なる土産物ではなく、MUJIの新店舗の場所である中国杭州の文化的アイデンティティを可視化するアイテムとも言えます。
生態系の構築
中国ニーズの理解し、中国文化への適合ができた後は、生態系の構築がキーポイントです。
中国市場には、「圏層文化」と言われる特定の興味や価値観に基づいて形成される社交的なネットワークやコミュニティが存在しています。
中国Z世代は趣味ごとに細分化されたコミュニティ(漢服、K-pop、二次元など)に属し、それぞれ独自の文化やコミュニティを持っています。
ここで、中国現地のブランドは、社内マーケティング部で細かな対応が可能ですし、中国現地情報をリアルタイムに容易に入手できます。
一方、日本企業や日本ブランドが、こうした複雑な文化地図を解読するには、少し難易度が高いです。
これを解決する方法として、中国現地パートナーの知見や協力を得るのが最も手っ取り早いです。
中国現地パートナーの知見や協力をうまく利用した事例として、夢展望の中国杭州進出があります。
日本ではかわいい系ファッションブランドとして知られる夢展望は、中国文化として受け入れやすい言葉である「幻想美学(日本語:幻想的な美学)」へと自社ブランドを再定義しています。
具体的には、自社店舗を幻想的に内装することで、幻想的な美学を追及しているとして、中国Z世代の共感を得ることに成功しています。

【夢展望の中国杭州店舗、夢展望のRED(小紅書)ホームページから抜粋】
このように、夢展望は、中国現地で受け入れやすくさせるために、自社ブランドを中国風に再定義し、中国Z世代の共感を呼びました。
さらに、日常に着る洋服や雑貨、実店舗でそれを体現し、自社ブランドが生活に浸透できるように、生態系させることに成功しています。
実際、この夢展望は中国杭州に進出する際、中国ローカルブランド管理コンサルティング会社である杭州萌宇宙に運営を一部委託して、成功につながっています。
日本ブランドが、中国本土にて、Z世代の求心力を高めるには、適宜中国のコンサルティングを活用することが重要であることを示す成功事例です。
最後に

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