現在、日本と中国間で福島処理水が大きな問題になっています。
中国側メディアでは、毎日のように大きな見出しで、福島処理水に関する問題が取り上げられています。
福島処理水は日中間の国際政治問題だけではなく、インバウンドや越境EC、中国国内の日系企業などにも影響を与えています。
この記事では、福島処理水がインバウンドビジネスへ与える影響、そして訪日中国人の視点でどう見られているのかについて、紹介していきます。
福島処理水がインバウンドビジネスへ与える影響
影響はあるが、その影響度合いは大きくない
2023年8月24日に福島処理水の放出が始まって以降、中国側では日本の水産物輸入を全面的に停止するなど、日中ビジネスに影響を与えるニュースが飛び交っています。
翌日25日には、日本産水産物の加工品の購入や使用することを禁じる措置まで公表され、中国側の強硬な態度は日に日に激しくなっている状況です。
これらのニュースなどを見ると、さぞ中国ビジネスを行っている日本企業に大きな影響を与えているのだろうと、感じる方が多いと思います。
確かに、例えば、日本の水産業であれば、輸出額の3割が中国の為、その3割がなくなったとなれば、大きな影響です。
ところが、日本ブランドのサプリや化粧品などを見ると、今のところ影響は小さく、中国越境ECランキングでは未だランキング上位の日本ブランドが多くあります。
中国インバウンドビジネスにおける影響は、依然として継続的な分析は必要ではありますが、それほど大きなものではないと考えられます。
歴史から見る影響度合い
中国インバウンドビジネスおける影響度合いについて、なぜそれほど大きなものではないと考えられるのか?
その大きな理由は、歴史から見ると、それほど大きな影響を与えないと判断できるためです。
当然ながらいろんな見方がありますので、一つの見方としてとらえていただければと思いますが、例えば、前提として、福島処理水を日本と中国間の国際政治問題、と考えてみましょう。
仮に、日本と中国間の国際政治問題と考えてみると、今回の問題は、決して初めてではありません。
大きな日中間の国際政治問題でいうと、2012年8月から始まった反日デモ、もう少しさかのぼってみると2005年の反日デモがありました。
2012年の反日デモでは、日本政府へのバッシング、日本ブランドの非買運動や中国にある日本料理店が破壊されるなどの事件が起きています。
そのタイミングで、中国人インバウンドビジネスに対して、どのような影響があったか見てみましょう。
下記が、2003年~2022年までの訪日中国人数の推移を示した図です。
【訪日中国人の推移(人)、日本政府観光局から情報収集し表作成】
2005年では65,2820人で前年比6%増、2012年では1,425,100人で前年比37%増でした。
つまり、2005年と2012年ともに、訪日中国人は減ることはなく、むしろ増えている状況だったのです。
訪日中国人の人数増加は、中国人インバウンドビジネスの規模を測るひとつの大きなバロメーターです。
この事実からいうと、福島処理水は日本と中国間の国際政治問題であるという前提が間違っていなければ、インバウンドビジネスには影響はないと考えることができるのです。
報道内容や実態からみる影響度合い
先ほどは、過去にさかのぼり、実際の数値データと重ね合わせながら、影響度合いを見ていきました。
次に、報道内容からみる、福島処理水のインバウンドビジネスへの影響度合いを見てきましょう。
日本の報道内容を見ると、中国政府部門による断固反対とした態度や、福島飲食店への中国人による嫌がらせなどのニュースが多く、インバウンドビジネスにはマイナスの影響がありそうです。
一方、中国側の報道でも、連日連夜、日本政府の福島処理水問題を非難する内容の報道がされています。
訪日する予定だった中国人から、日本への観光旅行キャンセルが相次いでいるという報道もありました。
中国現地では、ほとんどの人が、福島処理水問題のことを知っており、「今注文するなら塩プレゼント!」といった広告まで出ている状況です(福島処理水で海水が汚れるため、塩が高騰するという噂を皮肉ったもの)。
一方、実態を見てみると、中国現地の寿司屋さんやラーメン屋、日系の化粧品売り場で、特別お客さんが少ないということはありません。
店員さんへヒアリングしても、若干の影響はあるが、それほど客足は遠のいているとは感じていないという回答でした。
しかしながら、日本調味料を専門で扱う店舗などは、確実に注文量が減っているという店長からのコメントがあります。
インバウンドビジネス関連では、弊社の周りで聞いてみると、既に予約済みの訪日旅行の計画を変更するという中国人はいませんでした。
一方、初めて日本に行くことを検討していたが、もう少し様子を見てみたいと考えるようになった中国人は一定数いました。
全体的に見ると、日本や中国の報道の通り、日本旅行や日本商品から離れていった中国人は確実にいるが、現時点では影響は限定的であるといったところでしょう。
訪日中国人の視点で今日本はどう見られているのか
中国SNSから見る
福島処理水がインバウンドビジネスへ与える影響は、今のところ、それほど大きなものになっていないことが分かったと思います。
それでは、訪日中国人の視点で、今日本はどう見られているのかを見てみましょう。
実は福島処理水の放出が始まる前から、中国国内では日本政府避難の報道があり、関連SNS動画も多く投稿され、拡散されていました。
その動画の多くは、重油が海水にまかれるようなイメージ動画で、海辺に大量の魚が干上がっているという、ワンパターン化された非常にセンセーショナルなものです。
さらに、それらの動画のコメントを見ると、「日本はなくなってもいいが、太平洋はなくなったら困る」、「計算によれば日本人が福島処理水を毎日8杯飲めばすべて解決」、「日本人すべてを抹殺せよ」「日本ブランドの購入はやめよう」など、非常に恐ろしい内容が書かれています。
中国版TikTok抖音(Douyin)や小紅書(RED)では、数週間前まで訪日中国人旅行ツアーのライブが毎日のように行われていましたが、現在はほぼ行われていません。
中国SNSライブが行われていても1-2アカウントくらいで、実際見てみると、「今、日本は大丈夫なのか?」、「日本の海に入ったらすぐに病気になるのではないか?」といった、視聴者からの質問対応に追われ、全く商売にならない様子です。
福島処理水とは全く関係がない投稿でも、日本に関連する投稿というだけで、投稿者へ避難のコメントがされているほどです。
このように、中国SNS上では、福島処理水に肯定的な投稿は皆無に等しく、福島処理水の対応をめぐる反対のみではなく、反日運動までに発展している状況です。
中国現地の中国人と対面してわかる日本への印象
中国現地の中国人と対面してみると、少し印象は変わります。
反日まではいかないものの、福島処理水に関して、日本政府の行動には疑問を感じるという中国人が大部分です。
一方、福島処理水について詳細は分からず、政治がらみの問題な気もするが、日本への嫌悪感のような心理的な影響は避けられない、といった中国人も一定数います。
訪日したことのある中国人は、部分的な抵抗があるのみで、海水浴や海産物を避ければ、訪日は全く問題ないと割り切っている方が多かったです。
総括すると、訪日したことがなく、日本と全く接点がない中国人は、日本への印象が非常に悪くなっています。
一方、日本へ訪問したことがある中国人や日本と関り深い人ほど、政治的問題と冷静に見極めている中国人が多くいました。
政治的問題と判断している中国人は、中国SNS上で中国側に不利なコメントをすることは決してありません。
もしコメントしようものなら、非国民として扱われ、自分の身が危うくなるためです。
その結果、中国SNS上では、福島処理水に対するバッシングのみのコメントが表示されているということなのでしょう。
中国ビジネスへの対応
冷静に状況を見極めることが大事
今後、福島処理水が中国インバウンドビジネスに対して、どんな影響を及ぼすかについてはまだ分かりませんが、今のところ、それほど大きな影響を及ぼしてはいません。
ところが、日中間の政府問題は、何かさらに大きなニュースが出てこない限り、直近ですぐに好転することは考えにくいです。
中国政府側から、新たな日本産物輸入規制などが出てくる可能性も高いです。
このような状況では、新しいニュースや規制が、中国インバウンドビジネスに対してどのような影響があるのか、冷静に状況を見極めていくことが大切になります。
感情的にならず、冷静に状況を見極め、正しい判断を行った先に、インバウンドビジネスの成功があります。
可能な限り信頼できる情報に触れる機会を増やす
冷静に状況を見極めるためには、可能な限り信頼できる1次情報に触れる機会を増やすことが大事になります。
ここで、信頼できる1次情報とは、訪日中国人の統計データや、訪日中国人などに直接ヒアリングしてみることなどを指します。
いずれも、取得難易度の高い情報ではありますが、そのような情報に触れることで、真実が見えやすくなり、正しい判断ができるようになります。
例えば、日本や中国のメディア機関が発信する情報や、中国SNSのコメントだけで判断した場合、非常にネガティブな結論を導き出す可能性が高く、大きなビジネスチャンスを逃してしまうリスクさえあります。
メディア機関はネガティブな情報を流せば視聴率が取れること、中国SNSでも攻撃的でセンセーショナルな投稿が多くの視聴回数を取れることが影響しています。
その結果、メディア機関や中国SNSから発信される内容だけで判断すると、全体像を見誤ってしまうことがあるのです。
ビジネスで中国SNSを活用できた場合には、事例として面白いのですが、国際政治が絡むと、少しややこしくなる面があります。
また、信頼できる1次情報の取得が難しいようであれば、そのような情報に通じた方などから情報を入手してみるのもいいでしょう。
実際に日本ブランド商品の売れ筋はどうなっているのかを知ろう‐全体像
直近で、中国における日本ブランド商品の売れ筋はどうなっているのかについて、紹介します。
中国越境ECによる日本ブランド商品の売れ筋は、インバウンドビジネスでの売れ筋にも影響しますので、参考になればと思います。
まず、全体像として、TikTok抖音(Douyin) のECモールのデータによれば、日本ブランドの商品販売数量はそれほど変わっていません。
蝉妈妈数据 (chanmama.com)というデータ分析サイトでは、「日本輸入商品」で検索した結果の商品販売量は下記の通りです。
【蝉妈妈数据から「日本輸入商品」の販売数量推移を示した図】
8月30日に入手したデータではありますが、8月24日前後で大きな変化は見られません。
なお、8月30日に販売量が急落しているように見えますが、これはシステム上、当日データが入手できないためではあり、販売量が減ったわけではありません。
実際に日本ブランド商品の売れ筋はどうなっているのかを知ろう‐ランキング
次に、売れ筋商品のランキングを見ていきましょう。
まず、中国越境ECの最大プラットフォームであるTモールグローバル上で売れている商品をチェックしてみたいと思います。
【左が洗顔商品ランキング、右がインスタントラーメンランキング】
8月30日から数えて、直近1か月の販売数ランキングではありますが、洗顔商品ランキングでは、Curel、カネボウのfreeplusが上位にランクインしています。
インスタントラーメンでも、日清の出前一丁が2位にラインクインしています。
もう少し時間が経過した後に再度見る必要はあると思いますが、直近では直接肌に触れる物や食べ物でも、日本ブランドは売れています。
他の商品カテゴリーでも、日本ブランドは依然として上位にラインクインしています。
Tモールグローバルに比べると規模は小さくなりますが、TikTok抖音(Douyin) のECモールでの日本ブランドランキングと販売数量も見てきましょう。
8月29日におけるTikTok抖音(Douyin) のECモールにおける、日本ブランドランキングと販売数量は、下記の通りです。
【蝉妈妈数据から「日本輸入商品」で検索して販売量でソート】
中国語で見にくいと思いますが、上位にはロリエなどの生理用品、トイレクリーナー、芳香剤、歯磨き粉などがランクインしています。
販売数量で見ると、8月29日だけで、ロリエの生理用品が5000-7000個、トイレクリーナーが2500-5000個、歯磨き粉が1000-2500個売れています。
また、食品関連商品もあり、例えば、おでんの調味料は8月29日だけで1000-2500個売れています。
ただし、以前は、スナックや化粧品がもう少し上位にランクインされていましたが、現在はトイレクリーナーや洗浄剤などが上位にランクインされるようになっています。
日中のメディア機関から報じられている通り、日本の食べ物や化粧品の買い控えは少しずつ起きており、売れ筋商品のトレンドは変わりつつあると言えるでしょう。
以上、中国インバウンドビジネスへの対応で、参考になればと思い、直近の中国越境ECで売れている商品を紹介しました。
今後も弊社で関連情報を注視し、有用な情報があれば共有していきますね。
最後に
以上、福島処理水がインバウンドビジネスへ与える影響、そして訪日中国人の視点でどう見られているのかについて、解説しました。
弊社は現在、中国版TikTok抖音(Douyin)・小紅書(RED)を活用した中国SNSの運用代行や、中国への越境ECの支援などのサービスを展開しております。
ぜひご気軽にご相談ください。
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