中国の経済特区は、中国現地でビジネスを展開する日本企業にとって、非常に有利な場所です。
主として、優遇税制などの中国優遇政策を受けることができ、会社管理費用を抑えることにつながり、一般企業に比べて、容易に利益を生み出すことができます。
ところが、最近では、中国国内企業の発展を強化する傾向があり、外資だけでなく、中国国内企業にも優遇措置を受けることができるようになるなど、変化も見られます。
今回は中国の経済特区について、現地の最新情報を取り入れながら、紹介したいと思います。
中国の経済特区とは
中国の経済特区(経済特別区)とは、外国からの投資を引き入れ、経済成長を促進するために、特別な政策が採用されている地域のことです。
中国発展のために設置された特別地域
具体的には、中国の経済特区では、通常の中国国内とは異なる税制の優遇や規制の緩和が行われ、企業にとってビジネスがしやすい環境が整っています。
主な特徴としては、下記があります。
外国投資の促進
外国企業が中国の経済特区で工場を建てる場合、サプライチェーンが整っている地域や建屋の紹介などを中国政府側が積極的にサポートしてくれます。
日本の一企業が中国にいきなり進出するのに比べ、ビジネスを行いやすい環境が整っています。
税制の優遇
中国の経済特区に進出した企業には、法人税や関税などの減税措置を受けることができます。
例えば、進出後の数年間、一部の税金納税を減額・免除できるなどがあります。
規制緩和
外資企業の設立や経営に関する規制が、通常より緩やかに設定されています。
例えば、中国では一定の業種の外資企業に対して、中国現地企業の株主比率を50%以上にする必要があるなど、さまざまな規制が存在します。
経済特区では、一般区に比べて緩和されたルールが運用されています。
代表的な経済特区
中国の経済特区の概要が理解できたところで、代表的な経済特区を紹介しましょう。
1980年代初めに設立された最初の経済特区には、深圳(シンセン)、珠海(ジューハイ)、廈門(アモイ)、汕頭(スワトウ)があります。
2020年には、中国南部にある海南島(カイナントウ)にも経済特区が新たに新設され、経済特区は増え続けています。
これらの地域は、中国の経済発展に大きく貢献し、現在は世界的なビジネスハブになっています。
例えば、深圳(シンセン)は、ドローンを使ったデリバリーサービスや無人タクシーサービスが実施されるなど、経済的にも技術的にも、最先端な場所として有名になりました。
このように、経済特区は、国全体の発展を牽引するための実験的なモデルとして機能してきました。
経済技術開発区
経済特区と似たような地域として、経済技術開発区があります。
経済技術開発特区は、経済特区の制定後にあたる1984年に設立されましたが、経済特区と経済技術開発特区はいずれも、外国資本や技術の導入を目的としています。
当時、経済特区は中国国内でも特別な地位と権力を持ち、他の地域とは一線を画していました。
一方、経済技術開発特区は、外資に限らず、技術力のある中国国内企業へも誘致が積極的で、国内外に対して開放されているという点が特徴でした。
現在では、この両者の違いはほとんどなくなっており、優遇政策内容も大差はありません。
経済技術開発特区に指定されている地域には、上海、大連、青島などの沿岸部が中心でしたが、現在では、中国全国にあります。
経済特区の実情
1980年代の中国の経済特区は、経済特区でしかできないことや優遇政策が数多くありました。
ところが、2024年現在では、それほど魅力的な優遇政策はなくなってきているのが現状です。
例えば、数年前、中国で人材紹介ビジネスを行おうとしたとき、中国の一般区であれば、中国人・中国企業の株主を入れる必要があります。しかし、経済特区・経済技術開発特区では外国株主100%でも認められていました。
現在では、経済特区・経済技術開発特区以外の区でも、外国株主100%を認めています。
つまり、経済特区では優遇政策があるものの、数年経過すると、一般区でもその優遇政策が適用可能になっているのです。
ただし、一部、中国の経済特区でしかできないことも残されています。
例えば、IT人材が多い深圳・北京では、IT企業に対する優遇や人材紹介のあっせんなど、有利な点が多いです。
また、環境汚染に対する規制が厳しくなっている中国ですが、内陸部の経済技術開発特区では環境規制を緩めにしているところがあり、中国進出を考えている製造業にとってメリットが大きいです。
経済特区だからと言って、すべての日本企業にメリットがあるわけではなく、業種や規模、ビジネス特殊性などが大いに関係してくると言えるでしょう。
最近の日本企業の中国進出状況
日本企業にメリットの大きい経済特区ですが、最近の日本企業の中国進出の状況について、見ていきましょう。
進出数は落ち着いてきている
実は、最近の日本企業の中国進出数は、かなり落ち着いてきている状況です。
株式会社帝国データバンクの最新調査によると、中国に現地法人や生産拠点を持つ日本企業は約1万3000社に達しています。
この数値は、2年前のコロナ禍での撤退や縮小から約300社増加したものの、コロナ禍前の水準には戻っていないことを示しています。
【日本企業の「中国進出」動向調査(2024 年)、株式会社帝国データバンクより】
進出数が減少している背景
進出数が減少している背景として、日本企業は、中国事業の統合や東南アジアへの移転などを進めており、中国ビジネスに対して慎重な姿勢を取っていることが関係しています。
中国は安価な労働力と14億人を超える巨大な市場を持ち、日本企業も現地での生産・販売拠点を積極的に展開し、大きなサプライチェーンを構築してきました。
ところが、最近では以下の要因により、中国の魅力が低下しています。
- コロナ禍の影響: ロックダウンにより長期の操業停止や物流の混乱が発生。
- 経済的な要因: 円安、人件費の上昇、環境規制の強化が進行。
- 法的・政治的リスク: 「反スパイ法」の施行や、米国による規制強化でリスクが増大。
これにより、多くの外資企業が中国事業から撤退する「脱・中国」や、新規進出に二の足を踏む動きが進んでいると考えられています。
公式データには表れない中国進出裏事情
ところが、政府統計などの公式データには表れない中国進出裏事情があります。
その裏事情とは、日本人や中国人でも知っている人はわずかなのですが、下記の通りです。
中国在住の日本人が設立した会社の増加
最近の中国では、中国に長く住んだ日本人駐在員が、個人名義で会社を設立するケースが増えてきています。
その個人名義で設立した会社を使って、日本本社と取引を行うのです。
日本本社にとっては、外資企業として設立した中国子会社よりも、経費を削減できるケースが多く、雇用責任も問われないことから、多く採用されるようになりました。
この場合、中国在住の日本人は中国居住者に該当します。
そのため、統計上、彼らが設立した企業は、中国内資企業と扱われることから、帝国データバンクの進出数値には含まれないのです。
中国人名義で設立した会社の増加
中国進出スキームとして、中国子会社の代わりに、中国人名義で設立した会社を日本本社が運営するスキームも増えています。
背景としては、外資企業の場合、中国政府部門から目を付けられることやライセンス申請が難しいことがあり、お金と時間を要することが関係しています。
中国人名義で設立した内資企業であれば、その問題が解決するのです。
中国国内の登録情報としては、中国人の会社のため、会社にある資本金や利益などを持っていかれるリスクもあるのですが、大きな資金をそれほど必要としないサービス業などでは、よく利用されています。
このケースも、中国人名義の会社のため、統計上、帝国データバンクの進出数値には含まれません。
中国人パートナーに任せている会社の増加
中国在住の日本人が設立した会社と似ているのですが、以前中国子会社に勤めていた中国人現地スタッフに直接業務を依頼するケースも増えています。
以前は、中国ビジネスを行うには、中国に事務所や経理スタッフなどが必須でした。
ところが、コロナ後は、実は事務所は要らず、管理業務はアウトソーシングし、業務をこなしてくれるコアスタッフだけで業務を回せることがわかりました。
そのため、日本では大きな会社であっても、中国現地法人という形式ではなく、中国子会社に勤めていた中国人現地スタッフに直接業務を依頼しているケースがあるのです。
日本本社としては、中国側でビジネスを行っているものの、日本本社から中国在住中国人個人に報酬金として送金するというシンプルな商流です。
このケースも、統計上、帝国データバンクの進出数値には含まれません。
上記3つのケースでビジネス展開している日本企業の数に関して、残念ながら公式データはありませんが、中国現地にいる感覚としては、コロナ後は急激に増えています。
これらの裏事情を込みで考えると、中国と関わりのある日本企業は、増加している可能性さえあるのです。
経済特区の活用方法
経済特区の中国での立ち位置やビジネス環境の変化がわかったところで、ここからは、日本企業の経済特区の活用方法について、紹介します。
中国で拠点が必要か否かの検討
まず、自社ビジネスで、本当に中国で拠点が必須かどうかを検討するのが先決です。
なぜなら、経済特区が中国進出をする日本企業にとってメリットが大きいとはいえ、自社のビジネススキーム、規模、中国市場での展開方法などによって、メリットの度合は変わってくるからです。
仮に、中国拠点を構えて、中国ビジネスを展開したいと考えたとしましょう。
飲食店であれば、中国現地での拠点や従業員は必須です。
一方、化粧品や日用品の販売であれば、必ずしも中国拠点が必要ではありません。
例えば、中国拠点がなくても、中国版TikTok抖音(Douyin)や小紅書(RED)でグローバル版のアカウントを解説すれば、プラットフォームの物流網を使って、中国へ販売は可能だからです。
一部の商品にはSNSやネットではなかなか広まりにくいものもあり、中国向けに自社ブランド・商品認知を高めるために、中国現場にスタッフや拠点が必要なケースもあります。
このように、自社商品の特徴や商流などを総合的に検討する必要があります。
中国拠点設立費用や運用費用を計算
中国で拠点が必要か否かの検討した結果、中国で拠点が必要と判断したとしましょう。
次に、行うべきことは、中国拠点設立費用や運用費用を計算し、シュミレーションしておくことです。
中国拠点設立費用は一時期に比べて安くなっており、安いところだと、10万円以内で会社設立が完了します。
一部の経済特区では、無料で会社設立を行ってくれるところもあります。
一方、運用費用は、高くなっている傾向があります。
例えば、中国現地の中国人スタッフの給与は、日本とほぼ変わりません。
中国の平均賃金の統計データなどを見ると、中国の賃金は小さく見えます。
ところが、実際に、日本語が話せて、国際ビジネスにも精通した中国人を雇用しようとすると、人件費は30万円/月は下らないことが多いです。
それより小さい金額で雇用できたとしても、すぐに転職されてしまうリスクを覚悟する必要があります。
いずれにしても、会社運用費用については、「中国だから安く抑えることができる」という発想は既に現実的ではないことを認識しておく必要があるでしょう。
経済特区の活用の検討
中国拠点設立費用や運用費用を計算し、採算が合うと判断しましたら、経済特区の活用の検討を行います。
中国の経済特区・経済技術開発特区はかなりの数がありますが、それぞれ強みがあり、優遇政策内容も変わってきます。
例えば、上海の経済技術開発特区では、会社のバーチャルアドレスを無料で提供しており、その住所を使って会社登記ができます。
バーチャルアドレスのため、毎月の会社維持コストが抑えることができますし、自宅勤務で完結するビジネスにとっては、使い勝手がいいでしょう。
中国の経済特区や経済技術開発特区側は、納税やその地域の雇用促進を期待して、そのような優遇政策を実施しています。
そのため、会社設立して数年も経過するのに、1円も納税しない・中国人従業員も雇用していない状況でしたら、政府部門から指摘がある可能性があります。
ただし、弊社の経験では、中国政府側もビジネスに対する理解を示す担当者もおり、そのような担当者に対して、状況説明書やビジネス計画書を提示することで、多めに見てくれるケースもあります。
いずれにしても、経済特区の活用は、日本企業にとって有利になることが多いです。
最後に
以上、中国の経済特区について、現地の最新情報を取り入れながら紹介しました。
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