中国の観光客が日に日に増えていく中、医療ツーリズムのニーズが高まっています。
特に、中国側では美容系の医療サービスを受けたいというニーズが多く、そのニーズにうまく答えたいと考える日本側の整形外科クリニックも増えています。
中国人集客を行うには、美容系インフルエンサー（KOL、キーオピニオンリーダー）の活用が最も広告効果がありますが、中国美容業界のトレンドやインフルエンサー（KOL）の最新成功事例を理解しておく必要があります。
この記事では、中国美容業界のトレンドと美容系インフルエンサー（KOL）の成功事例について、紹介していきます。
中国美容系市場の状況
年々拡大する中国の美容業界市場
中国美容医療の市場規模は大きく成長しています。
艾媒（iimedia）コンサルティングの市場調査レポートによると、直近では前年対比で10-20%の成長を見せています。
中国美容医療サービス市場の規模は、2022年に約2500億元（約5兆円）であり、2025年には4100億元（約8兆円）に達する見込みです。
【艾媒コンサルティングの市場調査レポート：緑の棒グラフが市場規模（億元）、青いラインが成長率を示している】
世界の美容医療市場の成長率は約5％ですので、中国の10-20％という成長率は非常に高いです。
実際、中国現地にいると、中国の若い女性たちのコスメや整形に対する関心は非常に強いと感じます。
まだ整形をしていない若い中国人女性でも、興味を持っている人は非常に多く、今後の市場の拡大も期待できます。
中国美容に関するネガティブなニュースも多い
ところが、最近では、中国美容に関するネガティブなニュースが多いことも事実です。
その大きな理由は、2021年頃から顕在化した中国美容整形医療業界における信頼性の問題であり、具体的には、中国国内で美容整形の失敗事例が頻発していることが起因しています。
美容整形の失敗だけでなく、美容整形を行った医療機関への不信感も高まっています。
例えば、美容整形後に顔に大きな炎症が発生した中国人女性が担当医に相談したところ、「無料で治療するが、その条件としてSNSなどに投稿しないこと。
もし投稿したら治療費を請求する」と言われ、誓約書まで書かされたという事例がありました。
このような類似事例が増加し、実際、2021年の中国美容整形に関する訴訟件数は前年の2倍以上でした。
その結果、中国美容整形業界全体の信頼性が一時的に大きく低下しているのです。
実際に、2021年の医療関連で検索されるキーワードランキングでは、「整形失敗」や「医療訴訟」などのネガティブな言葉が上位を占めました。
中国政府部門による厳しい規制管理
中国政府は、美容整形業界の混乱を深刻に受け止め、2022年頃から医療サービスに対する規制を強化し始めました。
具体的には、
- 医療サービスライセンスの取得手続きの厳格化
- 医療機関への監視強化
- 無許可で医療サービスを提供する者への取り締まり強化
などが行われました。
中国では、医療サービスを提供する前にライセンスを取得する必要がありますが、その申請手続きに必要な書類や条件がさらに厳しくなりました。
以前は求められなかった申請書類が増加し、ライセンス取得の条件も厳格化されたのです。
また、医療機関への監視も強化され、中国政府の部門による立ち入り調査が頻繁に行われています。
立ち入り調査で、医療機関の内部管理が不十分と判断された場合、組織の再構築やスタッフの再教育が求められるなど、厳しい対応が取られています。
さらに、正式なライセンスを持たずに医療サービスを提供する組織や個人も少なからず存在し、その取り締まりが強化されました。
ライセンスを取得している医療機関であっても、実態と異なる広告や誇大広告が問題視され、虚偽記載として罰せられるケースが増えています。
中国SNSでの厳しい規制管理
中国政府部門が医療サービスに対する規制を強化し始めると、すぐに中国版TikTok抖音（Douyin）や小紅書（RED）でも同様の対策が取られるようになりました。
具体的には、以下の条件に該当するアカウントに対して運用強化が行われています。
- 医師免許や医療機関ライセンスを持っていないのに医療関連の動画や画像を投稿している（特にNGワードや敏感な言葉を使用している場合）
- 医師や医療機関の身分を利用してSNS上で物販などの商売を行っている（2022年6月から禁止）
- 視聴者から事実と異なる内容を投稿しているなどの訴えがあった場合
これらの条件に該当すると判断されたアカウントには、一時的なアカウント停止や、違反内容が深刻な場合にはアカウント削除が実施されました。
その結果、当時人気のあったアカウントが突然見られなくなることもあり、医療業界にとっては非常にショッキングな出来事でした。
厳しい規制をうまく潜り抜ける中国美容系インフルエンサー（KOL）
このように、中国美容業界と美容系インフルエンサー（KOL）は密接な関係があり、政府部門や中国SNSからの厳しい規制は、大きな影響がありました。
ところが、中国美容系インフルエンサー（KOL）の活動そのものが禁止されているわけではありません。
賢い中国美容系インフルエンサー（KOL）は、厳しい規制をうまく潜り抜けて、さらに大きく活躍しているインフルエンサー（KOL）もいます。
厳しい規制を回避する主な方法は、以下の3つです。
- 規制ジャンルを回避
- 規制ワードを回避
- 規制の厳しいプラットフォームを回避
規制ジャンルを回避
1つ目は、規制ジャンルを回避する方法です。
具体的には、医療ライセンスを持たないインフルエンサー（KOL）は、芸能人の顔分析や老けない方法などをコンテンツとして、実際の治療法などは投稿しないという方法を採用しています。
この方法を採用することにより、美容系医療規制ジャンルを回避し、うまく集客しているのです。
集客後は、SNSからの監視が緩いダイレクトメールや個人チェットで顧客と連絡し、うまく自分のビジネスにつなげています。
規制ワードを回避
2つ目は、規制ワードを回避する方法です。
規制ジャンルを回避する方法と類似していますが、例えば、投稿テーマを「旅行」とし、美容クリニックの紹介は、旅行中の一つの出来事として紹介しています。
このように投稿することにより、中国SNSからは、規制対象とはならず、通常通り投稿できるのです。
医師や医療機関であっても、物売りや広告とみなされれば、投稿内容が却下されることがあります。
多くの美容系インフルエンサー（KOL）は、規制ワードをうまく避けて投稿しています。
規制の厳しいプラットフォームを回避
3つ目は、規制の厳しいプラットフォームを回避していることです。
弊社の調査では、中国版TikTok抖音（Douyin）や小紅書（RED）が最も規制が厳しいです。
一方、BiliBili （ビリビリ）などのいくつかの動画プラットフォームは、それほど厳しく規制されていません。
実際、施術の紹介などを投稿しても、通常通り公開されています。
いくつかの美容系インフルエンサー（KOL）では、中国版TikTok抖音（Douyin）や小紅書（RED）では投稿できない美容整形紹介の動画を規制の緩い中国SNSで投稿しています。
今影響力の大きい中国美容系インフルエンサー（KOL）ランキング
中国美容系インフルエンサー（KOL）ランキング
中国美容系インフルエンサー（KOL）の苦悩や工夫が分かったところで、実際に活躍している中国美容系インフルエンサー（KOL）ランキングを紹介したいと思います。
中国美容系の投稿で最も活用されているプラットフォームは、小紅書（RED）です。
ここでは、feiguaデータ中心という中国の市場調査会社からのデータをもとに、小紅書（RED）における影響力の大きい中国美容系インフルエンサー（KOL）ランキングを見ていきましょう。
ちなみに、ここでの影響力とは、投稿の頻度、投稿内容に対する反応、実質的なフォロワー数（フォロワー自身が積極的にインフルエンサー（KOL）の投稿を見てアクションしているかなども見る）などを基準として判断しています。
ここ1か月前での影響力の大きい中国美容系インフルエンサー（KOL）ランキングは、以下の通りです。
| 順位 | インフルエンサー名称 |
| 1 | Oliver Walsh |
| 2 | 元气阿璃 |
| 3 | 不要吃这颗小米粒 |
| 4 | 正义的小米粒 |
| 5 | Apple穿戴甲 |
| 6 | 科目二三次郎 |
| 7 | 施靖容Alice.芊晶凯旋 |
| 8 | 張亞航 -芊晶凯旋 |
| 9 | 圆脸小小biu |
| 10 | 无解呀 |
| 11 | 易米八选手 |
まず、実際、美容系と言っても、ジャンルが非常に豊富なことがわかると思います。
1位のOliver Walshは、欧米人が流ちょうな中国語を話しながら、香水の選び方やつけ方をレクチャーするアカウントです。
3位の不要吃这颗小米粒や5位のApple穿戴甲は、ネイルの盛り付け方などを共有するアカウントです。
7位の施靖容Alice.芊晶凯旋や、8位の張亞航 -芊晶凯旋は、美容と骨格の関係性などについて興味深い投稿をしています。
成功事例の詳細分析‐施靖容Alice.芊晶凯旋
中国美容系インフルエンサー（KOL）ランキングで紹介したアカウントの中から、特に参考になるアカウントを紹介したいと思います。
1つ目のアカウントは、7位の施靖容Alice.芊晶凯旋です。
【施靖容Alice.芊晶凯旋のアカウントトップページ、小紅書（RED）より】
このアカウントでは、有名な芸能人やモデルを例に挙げて、なぜ老けて見えるのかや、若く見せる秘訣、童顔と顔の骨格の関係性などを解説しています。
ビジュアル的にわかりやすく面白い投稿に仕上がっているため、あまり美容に興味のない男性でも、次の投稿も見たいと思わせます。
多くの投稿を見てると気が付くのが、医療用語が全くと言っていいほど使われておらず、医療機関への誘導もしていないことです。
投稿の動画やコメントなどを見ても、医療機関への問い合わせを誘導する気配さえもなく、知的好奇心をそそるコンテンツを投稿するアカウントに仕上がっています。
実際のアカウントのデータを見ても、フォロワー数13万人に比べて、「いいね＋お気に入り登録」の数が70万近くあり、投稿内容の評価が高いことがうかがえます。
それでは、コンテンツ重視のこのようなアカウントは、どのように美容ビジネスにつなげているのでしょうか？
それは、個人連絡と規制の緩いプラットフォームを活用して、美容ビジネスにつなげているのです。
個人連絡
まず、個人連絡とは、小紅書（RED）上でのダイレクトチャットです。
小紅書（RED）上で、施靖容Alice.芊晶凯旋へダイレクトチャットをしようとすると、下記のような画面が表示されます。
【施靖容Alice.芊晶凯旋のダイレクトチャットの画像】
中国語で分かりにくいと思いますが、中国版LINEと呼ばれるwechatのアカウント名が記載されており、診断時間・場所まで丁寧に連絡が来ています。
【実際にwechatのアカウントで検索すると、施靖容Alice.芊晶凯旋が表示される】
美容整形に興味ある方であれば、必ず連絡することでしょう。
規制の緩いプラットフォーム活用
次に、規制の緩いプラットフォーム活用については、BiliBili （ビリビリ）を活用して集客する方法です。
BiliBili （ビリビリ）では、中国版TikTok抖音（Douyin）や小紅書（RED）に比べると、美容業界に対する規制はそれほど厳しくありません。
そのため、比較的美容に関する内容をオープンに投稿できるうえに、別プラットフォームでの連絡先の公開も許されています。
下記画面が、施靖容Alice.芊晶凯旋のBiliBili （ビリビリ）トップページですが、画面真ん中の自己紹介欄に、wechatのアカウント名が記載されています。
【施靖容Alice.芊晶凯旋のBiliBili （ビリビリ）トップページ】
さらに、このアカウントの作成者は、自分自身が医者でありながら、数多くの美容医療機関の株主や役員、委員長として活躍しています。
小紅書（RED）やBiliBili （ビリビリ）を活用して、集客に成功していることがうかがえます。
成功事例の詳細分析‐張亞航 -芊晶凯旋
2つ目の参考になるアカウントは、8位の張亞航 -芊晶凯旋です。
【張亞航 -芊晶凯旋のアカウントトップページ、小紅書（RED）より】
施靖容Alice.芊晶凯旋と張亞航 -芊晶凯旋のアカウントは、非常に似ています。
コンテンツやwechatアカウントへの誘導は、ほとんど一緒です。
違いを挙げるとすれば、張亞航 -芊晶凯旋の方が、張亞航氏が主体となって説明していることです。
コンテンツを見ていると、張亞航氏が動画に表示されていない時間はほとんどなく、比較表などが前面で出ているときも、ワイプで張亞航氏が表示されています。
【常に動画に出ている張亞航氏（右下）、小紅書（RED）より】
美容整形外科では、医療機関もそうですが、医者自身の信頼性が重視されます。
張亞航氏が自ら前面に出て、堂々とわかりやすく美容系の解説をしている姿を見ると、「この人なら信頼できる」と思わせます。
成功事例の詳細分析‐ランキング外
最後に、ランキング外ですが、参考になる美容系の投稿内容を2つ紹介したいと思います。
その投稿では、美容系ジャンル以外の中国インフルエンサー（KOL）が、「海外旅行に行ってきました」というテーマで、旅行先の美容整形外科を紹介しています。
1つ目は、西资卡という中国インフルエンサー（KOL）が、日本旅行というテーマで、動画の真ん中あたりで、日本の美容クリニックを紹介しています。
（美容クリニックを全面的に投稿してしまうと、投稿がバン（削除）されるため）
🇯🇵日本自由行，除了干饭我只干这三件事‼️ – 小红书 (xiaohongshu.com)
2つ目は、HiyaSonyaという中国インフルエンサー（KOL）が、韓国旅行というテーマで、動画の中間地点あたりで、韓国の美容クリニックを紹介しています。
小红书 – 你的生活指南 (xiaohongshu.com)
今のところ、美容系クリニックの紹介案件のトレンドは、このような投稿です。
最後に
以上、中国美容業界のトレンドと美容系インフルエンサー（KOL）の最新成功事例について、解説しました。
弊社は現在、中国版TikTok抖音（Douyin）・小紅書（RED）を活用した中国SNSの運用代行や、中国への越境ECの支援などのサービスを展開しております。
ぜひご気軽にご相談ください。
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