昨今、注目されているワードとして、ESGがあります。
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとった言葉で、 企業の持続可能性や社会的責任を評価する重要な指標です。
中国市場においても、ESGはもはや「選択肢」ではなく、「選ばれるブランドのための条件」へと進化しています。
実際、単なる法令順守では不十分で、中国現地政策の深い理解・透明性のある情報開示・サプライチェーン管理などが、ブランディングにも影響を与えます。
そこで、本記事では、中国現地の最新情報を交えながら、ESGで選ばれるブランドになるための、中国市場で成功する秘訣を解説します。
ESGとは – 現代ビジネスの新たな企業評価基準

ESGとは –
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとった言葉です。
企業や団体がこれら3つの要素に対してどのような影響を与えているかの評価基準として、日に日に注目度が増しています。
これまで、企業評価を行う判断基準は財務指標でした。
ところが、現在においては財務指標のみならず、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance) の3軸で企業を評価する「ESG」が、一つの判断基準として注目されているのです。
中国におけるESG
中国市場においても、企業を評価するものさしが変わりつつあります。
特に、中国では他の国と異なり、中国政策が中国市場に直接大きな影響を与えますので、中国ビジネスを展開するブランドにとって、重要テーマと認識する必要があります。
実際、中国国家主席が2020年に「双碳目標(日本語:ダブルカーボン目標)」として、2030年にカーボンピークアウト、2060年にカーボンニュートラルを発表しました。
ここでいう「カーボンピークアウト」とは、2030年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせることを指し、カーボンニュートラルは2060年までに二酸化炭素排出量ゼロにすることを指します。
中国の政策主導のESG加速
さらに、最近ではESG加速の動きがみられます。
中国生態環境部は2023年に上場企業に対する環境(Environment)情報開示制度を導入しました。
また、「ESG評価ガイドライン」の制定により、企業は自然環境負荷データからサプライチェーン管理まで、定量可能な形での開示が義務付けられつつあります。
開示義務などが強制ではなく、未実施の企業がほとんどなのにもかかわらず、一部の中国企業では自らESGに関する基準を設けて、ブランド価値を高めています。
例えば、自動車業界では、EVメーカー「BYD」がサプライヤーに対し「グリーン調達基準」を適用し、部材の炭素トレーサビリティ管理を厳格化させています。
その結果、BYDは中国で、しっかりESG対応しているブランドとして再評価され、中国での人気がさらに高まり、まさにBYD は、ESGで選ばれているブランドになりました。結果としてESGを武器にしている好例です。
消費者の意識の変化
「多くの消費者はESG評価など気にしていない」と思われる方がいるかもしれませんが、現実はそうではありません。
特に、若い世代は、ESG評価を重視する傾向があります。
世界的有名な戦略コンサルティング会社であるマッキンゼーの調査では、世界のZ世代の68%が「購入決定時にESG評価を参照する」 ことがわかっています。
中国Z世代でも、その傾向は世界と同様で、ESG評価を高く評価しています。
実際に、中国の化粧品業界では、米国系ブランドであるエスティローダー(Estée Lauder)が「廃棄プラスチックゼロ」宣言と海洋保護プロジェクトを連動させ、中国SNSで若年層の共感を得て、ブランディングに大きく貢献しました。
一方で、グリーンウォッシュ(環境配慮の偽装)への監視も厳しく、某欧州ファストファッションブランドは「リサイクル素材使用」の虚偽表示が炎上し、中国市場でのシェアを10%失う事態に陥っているケースもあります。
投資家の意識の変化
消費者だけでなく、ステークホルダーとして投資家の意識の変化も見られます。
実際、2024年、上海証券取引所に「STAR-ESG指数」が新設され、ESGスコア上位企業への資金流入が加速しました。
例えば、半導体メーカーである中芯国際は、水資源リサイクル率95%の工場システムを開示し、ESG特化ファンドから200億円の調達に成功しています。

【ESGスコアテストで高評価を得たという報告書、中芯国際ホームページより】
もはや、ESGは「倫理的選択」ではなく、「中国市場で持続的成長を約束する通行証」と言えるでしょう。
ESGを中国市場で実施するための重要ポイント

ESGの概要が分かったところで、ここからは、ESGを中国市場で実施するための重要ポイントを見ていきましょう。
陥りがちな課題と解決策を具体例とともに、4つのポイントに分けてご紹介します。
ポイント1:政策の「奥行き」を読み解く
ポイント2:信頼構築のための透明性
ポイント3:サプライチェーンの管理
ポイント4:ステークホルダーとのエンゲージメント
ポイント1:政策の「奥行き」を読み解く
中国のESG政策は中央政府から地方政府へ、業界別に細分化される特徴があります。
例えば、中国の中央政策である「双碳目標(日本語:ダブルカーボン目標)」に基づき、上海市は「建築物のエネルギー消費上限規制」、広東省は「電子機器リサイクル義務化条例」を施行しています。
また、食品業界では、2024年「反食品浪費法」が実施され、外食チェーンに「小盛りメニューの義務提供」などが課されています。
成功事例として、中国工場で「3R(Reduce, Reuse, Recycle)運動」を展開した日本食品メーカーがあります。
このメーカーは、調味料容器の軽量化(プラ削減18%)、製造工程の蒸気熱回収(CO2削減25%)、さらに四川料理店向けに「リサイクルパック調味料」を開発し、食品廃棄削減に貢献しました。
これらの対策が中国工場の登記地である地方政府の「食品ロス削減奨励金」対象となり、地方政府からの奨励金獲得、コスト削減と中国市場からのESG評価向上を同時達成することに成功しています。
中国ESG対策を行う際は、中国中央政府から発表されるルールだけでなく、中国地方政府から発表されるルールにも注意し、かつ細分化されている業界ルールにも目を見張る必要があります。
ポイント2:信頼構築のための透明性
中国消費者は「データと実績」で真剣さを測ります。
ある調査では、開示情報に第三者検証がある企業への信頼度が87% に達する一方、自主申告のみの企業は32%に留まります。
対策としては、GRIスタンダードに加え中国独自の「CASS-CSR4.0」フレームワークを併用し、かつ第三者機関からの評価を受けることが高い評価につながるでしょう。
ここで、GRIスタンダードとは、組織の経済・環境・社会に与える影響に基づく情報開示を促す国際的な開示基準であり、ESG評価を行う際に世界的なスタンダードとして使われています。
一方、中国独自のスタンダードも存在し、それが、「CASS-CSR4.0」と呼ばれる中国企業社会的責任を定めたものです。
また、これらのスタンダードに沿って、外部機関からの評価を受けることも可能です。
ポイント3:サプライチェーンの管理
ESG対応は、自社のみ対応できれば万全というわけではありません。
中国のESGリスクは、下請け企業に潜むケースがあります。
特に、ESGのうち「社会(S)」分野では、劣悪な労働環境を指摘されることがあります。
例えば、日本企業の中国現地調達先企業の労働環境に厳しい目を向けられることがありました。
中国にある日系自動車部品メーカーでは、実際にそのような指摘を受けたことがあり、一時的に評価が下がっていた時期がありました。
その対策として、そのメーカーは、中国現地サプライヤー向け「ESG自己診断ツール」を無償提供し、さらに、労働環境改善に特化した「人権デューデリジェンスチーム」を上海に設置しました。
違反サプライヤーへは、労働環境改善に向けた活動を積極的に実施しました。
この取り組みにより、取引先工場の労働環境が改善し、そのメーカー自身の信頼も大きく回復することができました。
ポイント4:ステークホルダーとのエンゲージメント
中国では政府・消費者・NGOなどの期待値が急速に変化します。
ステークホルダーとの交流を定期的に実施し、情報法収集を欠かさないとともに、関係性を維持することが大切です。
効果的な対応方法としては、投資家・NGO・学術機関などを招待し、「ESGフォーラム」などを定期的に開催するなどがあります。
実際に、花王では、WeChat公式アカウントでのESG活動の報告をリアルタイムにしており、ステークホルダーとのエンゲージメントを大切しています。

【WeChat公式アカウントでのESG活動の報告をリアルタイムに実施、花王の公式アカウントより】
ESGで選ばれるブランドになるための実践戦略

ESGを中国市場で実施するための重要ポイントがわかったところで、ここからは、もう少し実践的な戦略について、紹介しましょう。
ESGを「コスト」から「ブランド価値」に転換する4つの戦略について、中国市場で成果を上げた事例と共にご紹介します。
戦略1:社会課題解決型プロダクトの開発
戦略2:感動を呼ぶ物語性を持たせる
戦略3:オフライン体験の設計
戦略4:信頼できるパートナーシップとの連携
戦略1:社会課題解決型プロダクトの開発
中国が直面する「高齢化・都市部過密・水不足」等の課題解決に直結する商品開発が共感を生み、結果としてESGで高く評価されます。
例えば、中国の地方では、水不足や衛生管理に問題を抱えた地方政府や組織が多くあります。
ここで、TOTOでは、中国の地方の学校などに、自社の商品の強みを活かした超節水便器などの導入支援を行いました。

【中国の地方の学校へ水回り支援を実施するTOTO、TOTOホームページより】
その結果、ESG評価が高まり、社会的責任だけでなく、中国の環境にも配慮したブランドとして、再評価されました。
戦略2:感動を呼ぶ物語性を持たせる
ESG活動を「数字」から「物語」へ変換させる手法が効果的です。
中国のある電化製品メーカーが自社が行った「沙漠緑化ドキュメンタリー」が成功事例として、参考になります。
そのメーカーは、内モンゴル沙漠で10年間続ける植林活動を、Bilibili(哔哩哔哩)という中国Z世代に人気な動画プラットフォームでドキュメンタリー化しました。
中国現地住民との協働、失敗と挑戦のプロセスを描写した感動的なドキュメンタリーに仕上げます。
動画公開後、同社の空気清浄機などの認知度が急上昇し、売上にも大きく貢献しました。
戦略3:オフライン体験の設計
中国Z世代の特徴として、「体験型消費」を重視する傾向があります。
中国でESGで成功している多くのブランドは、この傾向をうまく活かしています。
実際、中国の実店舗では、中国消費者にESGに関するオフライン体験をさせるコーナーを設ける風景が増えています。
例えば、無印良品の中国上海の実店舗では、フロア中央に「リサイクルステーション」を設置(服・プラ・食品容器回収)しています。
リサイクルステーションでは、使用済みや使わなくなった無印良品を実店舗へ返品すると、エプロンや手提げ袋などのリサイクル商品がもらえるというキャンペーンも実施しています。
回収素材を再利用した「リメイド商品工房」を設置するなど、顧客と実店舗がコミュニケーションできる場を積極的に作っています。
その結果として、この店舗では来店者数が増え、リピート率も上昇し続けています。

【無印良品のリサイクルステーション、RED(小紅書)より】
戦略4:信頼できるパートナーシップとの連携
単独でのESG推進には限界があります。
ここで、現地の信頼できる組織との連携が突破口を開きます。
中国に進出していた日本ブランドの飲料メーカーは、中国有名大学連携で、「水質改善プロジェクト」を実施しました。
無事そのプロジェクトを成功させることができ、ESG評価の高いブランドとして知名度が上がるとともに、中国の学問の発展にも寄与したとして、ブランド価値が上がりました。
もう一つの成功事例をお伝えすると、中国に進出して20年目にようやく中国事業が黒字化したローソンです。
中国ローソンが黒字化した一つの要因として、環境に配慮した店舗づくりが挙げられます。
実際、中国・上海市には、電気使用量や二酸化炭素(CO2)排出量を減らした環境配慮モデル店舗「ローソン七莘路1010号」をオープンしています。
その際、信頼できるパートナーだったのは、中国パナソニックでした。
最後に

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