中国のインターネットは、中国政府からの情報統制が厳しいことから、一定の制限がある中で利用されています。
一方、他国と比較して、インターネットのスピードやネットワークカバー率は高く、2019年末には5G(第5世代移動通信システム)を展開を開始するなど、非常に革新的です。
中国のインターネット事情は、規制と革新が共存する世界と言えるでしょう。
今回は中国のインターネット事情について、現地の最新情報を取り入れながら、紹介したいと思います。
中国のインターネット規制
中国インターネット情報センター(CNNIC)が2024年8月29日に発表した内容によれば、中国のインターネット利用者は約11億人であり、インターネット普及率78%に達しています。
中国インターネットの普及が広がっていく中で、中国政府部門による情報統制という事情は、変わっていません。
中国のインターネット規制事情
中国のインターネット規制とは、情報が中国と他国で分断され、情報アクセスや発信に規制がある状態を指します。
具体的には、グレート・ファイアウォールというインターネット検閲システムが、中国全土に敷かれており、インターネットの閲覧や通信が制限されています。
例えば、中国のインターネットを使って、中国国外のメディア、XやインスタグラムなどのSNS、Googleなどの国際的な検索エンジンサイトを使うことはできません。
また、反中国と疑われるようなサイトへアクセスした人は、中国政府部門や警察部門からマークされます。
特に、中国には敏感な文字があります。
例えば、「ジャスミン革命」などの民主主義を想起させる言葉を中国のネットで検索すると、一時的に、ネットでの検索機能がストップすることや、遅くなることがあります。
敏感な文字については、こちらの記事でも紹介していますので、興味のある方はご覧ください。
そのくらい、中国ネット管理はリアルタイムでかつ厳格に管理されているのです。
中国インターネット専門警察官
中国現地では、敏感な文字を使って検索し続けることや、反中国へのブログへのアクセスが多い場合、中国警察から突然訪問されることがあります。
中国には「网络警察」と呼ばれるインターネット専門の警察組織があり、約2万人の警察官が活動しています。
彼らは2015年に微博や微信といったSNSに公式アカウントを開設し、ネット上で犯罪や有害情報を監視、摘発しています。
【中国インターネット専門警察官の微博(Weibo)公式サイト】
主な業務には、ネット犯罪の処罰や犯罪予防の情報提供、違法行為の取り締まりが含まれ、特に「常時ネット監視・巡回」に重点を置いています。
この監視活動は、中国国民による暴動を防ぐためであり、個人情報は身分証やパスポートと紐づけられて厳重に管理されています。
あらゆる情報が厳密に管理されている中国
中国インターネット専門警察官は、中国人であれば身分証明書、外国人であればパスポートの番号と紐づけて、厳密にあらゆる情報を管理しています。
中国現地で生活するとわかりますが、例えば、ホテルに泊まる際は、パスポートを提示しかつ場所によっては顔認証を行う必要があります。
新幹線や大型バスに乗るときや、大きなビルに入るとき等も、パスポート原本を提示する必要があります。
そして、これらの情報は、中国警察の情報管理システムにすべての情報が転送されています。
このように、個人の場所や行動が、中国警察側ですべて管理されているのです。
「情報を入手できる環境であっても、ずぼらな中国はきちんと管理してないだろう」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、厳密に管理しています。
例えば、中国警察の情報管理ソフトウェアに、身分証明書番号やパスポート番号を入れるだけで、過去に泊まったホテルの一覧が一瞬で出てきます。
このシステムは、一定の管理職以上の警察官だと見ることができ、場合によっては、浮気調査の資料などとして使われているケースもあります。
また、中国闇市場では、位置情報、インターネットアクセス一覧、SNSでの閲覧・発信記録、ネットショッピングの記録などが数万円~数十万くらいで購入できます。
これらの情報は、中国警察の内部者のみが入手できる情報ばかりなのですが、中国警察は個人情報を細かく収集し、管理しているのです。
中国のインターネットの革新
中国のインターネット規制事情について、理解いただいたかと思いますが、革新的な面も見逃せません。
早速どんな革新的な面があるのか、見ていきましょう。
スマートフォン一つあれば生活に困らない
もっとも革新的なことと言えば、中国ではインターネットにつながっているスマートフォンがあれば、生活には困らないことです。
中国現地で生活するとわかるのですが、若い男性を中心に手ぶらな人が多いことに気がつきます。
バッグを持っていたとしても、ショッピングで買った小物などたいした物は入っていないです。
なぜなら、インターネットにつながっているスマートフォンであれば、買い物、決済、友人との連絡、映画館チケット購入、経費精算や会計システムの操作までできてしまうからです。
最近では、日本でもスマートフォン決済ができるようになっていますが、中国では日本に先駆けて、財布の要らない生活が実現できるようになっていました。
実は、中国ではさらに先に進んでおり、顔認証で決済ができるシステムが導入されています。
例えば、コンビニなどでは、顔認証システム機械に顔をかざすだけで買い物ができ、既にスマートフォンさえも不要な世界が実現しています。
微信(wechat)での事例
スマートフォン一つあれば生活に困らないという状況について、もう少し具体的に見ていきましょう。
例えば、中国には微信(wechat)という、中国版LINEとも呼ばれる、最もメジャーなコミュニケーションアプリがあります。
この微信(wechat)では、ミニプログラムと呼ばれる、微信(wechat)の中で動く小さなアプリを指します。
アプリのようにダウンロードする必要がなく、WeChatのプラットフォーム内で、そのまま簡易版のアプリプログラムが利用できることから、ミニプログラムと呼ばれています。
例えば、コーヒーを注文したいと考えたとしましょう。
その場合、スマートフォンで注文しようとすれば、まずコーヒー店のアプリを検索して、ダウンロードする必要があります。
一方、WeChatミニプログラム(微信小程序)であれば、普段使っているWeChatの中でコーヒー店を検索するだけで、そのコーヒー店アプリが開き、アプリダウンロードが不要で、すぐにコーヒーを注文することができます。
このように、WeChatミニプログラム(微信小程序)を活用することによって、普段使っているチャットアプリ上で、出前や買い物が手軽にできるようになるのです。
コーヒーを買うことだけでなく、経費精算や納税、水道代などの公共料金支払い、ビデオチャットなどもできます。
つまり、財布やPCなどを持つ必要がなく、スマートフォン一つで、遊びや仕事を完結させることができてしまうのです。
中国の全人口が革新の波に乗っている
インターネットの発展による便利な生活を謳歌しているのは、一部の若者だけではありません。
お年寄りや子どもも含めて、中国全国民がインターネットの革新の波に乗っています。
中国現地で周りを見ていると、70~80歳の高齢の方でもスマートフォンを片手に、家族と連絡や情報収集を行っています。
日本の高齢の方の場合、スマートフォンや複雑なアプリの利用を毛嫌いする方が多いですが、中国ではそのようなことはほとんどありません。
中国統計データにもそれがはっきりと表れており、中国国民の年齢人口ピラミッドとインターネットユーザー層はほぼ同じです。
さらに、60歳以上のインターネットユーザーのうち、75%以上がスマートフォン決済を行っており、中国高齢者がスマートフォン決済を使いこなしていることがわかります。
中国の多くの子どもも、小学生のころからスマートフォンなどの電子機器を持っています。
実際比率が80%以上で、日本を含む他国と比べても、普及率は群を抜いています。
中国では子どもの誘拐が多いため、子どもにスマートフォンを持たせて、常に連絡を取れるようにしているという事情もあるのですが、いずれにしても、子どももインターネットの革新の波に乗っている状況にあるということは分かったと思います。
中国のインターネット事情を理解し上でのビジネス展開
中国のインターネット規制と革新が共存する事情は分かったと思います。
ここからは中国のインターネット事情を踏まえて、どのように中国ビジネスを展開していったらよいかについて、紹介します。
中国SNSを活用したマーケティング
まず、結論から言うと、中国SNSを活用を中心として、ビジネス展開することが最も大切です。
中国でインターネットの普及率が高いとは言え、パソコンを使って会社や商品を調べるような中国消費者はほぼいません。
大部分の中国消費者は、スマートフォンを片手に、中国版TikTok抖音(Douyin)や小紅書(RED)などの中国SNS上で検索しています。
実際に、2022年あたりを境に、中国版TikTok抖音(Douyin)の検索量は、中国最大手の百度(Baidu)の検索量を既に超えるようになりました。
購買行動が活発な中国の若い女性は、検索エンジンや購買サイト上の商品ページを直接見るのではなく、まず、小紅書(RED)で検索して口コミを見てから、購買の意思決定を行います。
つまり、中国消費者は中国SNSを使って情報を収集するようになってきており、ブランド側は中国消費者の新しい行動パターンをおさえたうえで、中国ビジネス展開を行う必要があるのです。
中国SNS上での公式サイト
中国で自社ブランドを展開したいと思うであれば、中国SNS上での公式サイトを開設するのが、第一歩として適切でしょう。
中国では、グレート・ファイアウォールというインターネット検閲システムが働いていることが影響して、日本の中国語版ホームページがあったとしても、うまくアクセスできないことが多いです。
ここで、中国SNS上での公式サイトがあれば、中国人がアクセスしやすく、信頼できるブランドとして認知されます。
例えば、微信(wechat)では、企業版があり、中国に拠点がなくても、日本企業として、公式サイトを開設できます。
WeChat(微信)企業版には、3つの種類があります。
サブスクリプション(購読)アカウント
サブスクリプションアカウントは、Webメディアやブログの更新通知に適しており、個人でも利用可能で、1日1回の配信が可能です。
情報発信だけを行う場合は、こちらが向いているでしょう。
サービスアカウント
サービスアカウントは企業向けの機能が充実しており、月に4回までの配信制限がありますが、WeChat Paymentなどの広範なAPI機能が利用できます。
また、サービスアカウントは通常のチャット画面にメッセージが表示されるため、開封率が高いのが特徴です。
コーポレート(企業)アカウント
コーポレート(企業)アカウントは、企業が社内で情報を共有するために利用されているアカウントです。
これは、チャットツールとしての機能を果たし、「チャットワーク」や「Slack」、「LINE WORKS」などに似ています。
より詳しく見たい方や自分で解説してみたいという方は、こちらの記事で詳細を紹介していますので、ご覧ください。
中国インターネット規制の回避方法と注意点
最後に、中国インターネット規制を回避する方法について、紹介したいと思います。
中国ビジネスを展開する方の中には、中国滞在中にインターネットの規制で、通信手段が使えなくなり、直接的に仕事に影響が出てしまうこともあります。
中国インターネット規制の回避方法として、最もメジャーなのは、VPNを使うことです。
VPNとは、「Virtual Private Network」の略で、仮想の専用線を指します。
仮想の専用線を使うことで、中国のインターネット検閲システムを潜り抜けることができ、中国国外のサイトにアクセスできます。
VPNサービスは、基本的に、スマートフォンやパソコン上で設定などを行うことで、使えるようになるのです。
最近では、中国出張前に、無線ルーターを手配する際、VPN付きのルーターを選ぶこともできるようになっています。
中国政府が認めた業者以外からのVPNサービスの提供は、明確に禁じられています。
また、そのVPNサービスを利用することも固く禁じられています。
中国警察官にみつかってしまった場合は、そのVPNの使用はすぐに止められ、注意を受け、15,000元(30万円相当)以下の罰金が科されます。【中華人民共和国コンピュータ情報ネットワーク国際ネットワーク管理暫定規定】
日本人含む外国人が、VPN関連で罰金を受けたケースは、今のところ聞いたことがないため、事例ベースでいえば、それほど気にする必要はありません。
潜在的リスクはあることに注意が必要です。
最後に
以上、中国のインターネット事情について、現地の最新情報を取り入れながら紹介しました。
弊社は現在、中国版TikTok抖音(Douyin)・小紅書(RED)を活用した中国SNSの運用代行や、中国への越境ECの支援などのサービスを展開しております。
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