中国ECで最大のキャンペーンと言えば、独身の日です。
中国現地では、キャンペーンが始まる1か月ほど前から、独身の日で何を購入するかについて、話のネタになるくらい盛り上がります。
中国消費者向けに商品やサービスを販売している企業でしたら、このキャンペーンを活用しない手はないでしょう。
この記事では、独身の日マーケティング、中国市場を攻略するためのマーケティング戦略とその成功事例について、紹介していきます。
独身の日マーケティング
独身の日とは
独身の日とは、毎年11月11日に独身者がネット通販で楽しい買い物ができるよう、各中国ECプラットフォームがキャンペーンを実施する日を指します。
中国では、最も大きな販売金額が記録される期間でもあり、中国ECに出店しているブランドや店舗では、どこも独自のキャンペーンを実施し、大きく盛り上がります。
もともと、中国のカレンダーでは、11月11日は光棍節(こうこんせつ)と呼ばれ、独身の日と扱われています。
独身の日には、恋人がいない大学生が、11月11日にパーティーを開いて、プレゼント交換などが行われていました。
その後、2009年に中国最大のECプラットフォーム運用会社であるアリババが、独身の日セールとして、タオバオで大規模なキャンペーンを始めます。
それが、予想以上に大ヒットし、以降、东京(アリババに次ぐ中国シェアNo.2を誇る巨大ECサイト)や、中国版TikTok抖音(Douyin)などの他の中国ECサイトでも開催されるようになりました。
現在では、独身でない中国人もキャンペーンに参加し、ECコマースでの買い物を楽しんでいます。
独身の日における中国消費者行動の特徴
独身の日における、中国の消費者行動の特徴をいくつか紹介したいと思います。
1つ目の特徴は、商品の安さに魅力を感じて、いつもより多く買い物をすることです。
独身の日の最大の目玉は、なんといっても、大幅な安売りセールです。
数か月前から買い物を我慢し始め、中国最大の安売りセール時に買い物をしようと考える人まで出てくるほどです。
2つ目は、「1人用」のものが売れる傾向があることです。
独身の日というだけあって、「1人用」の炊飯器や食器洗い機、「1人用」のインスタント食品などがよく売れます。
実際には、独身者でなくても買い物をするようになったとは言え、一人を意識する日であることには変わりはないのでしょう。
また、中国全体として、結婚しないという選択肢を選ぶ人が多くなり、「1人用」のものの需要がそもそも大きくなっていることも関係しています。
3つ目は、Z世代の消費行動が大きな影響力を持ち始めていることです。
Quest Mobile(中国大手の市場調査会社)によれば、2022年6月時点で、中国Z世代の規模は、3億4200万人に達している大きな層に成長しています。
現時点で、主要な消費者層は中国Z世代前の30~40歳代ではありますが、Z世代消費者層の成長の勢いや消費の旺盛さを見ると、確実にEC市場に対する影響力が強くなっています。
中国Z世代の消費行動そのものにも特徴があり、例えば、1か月のうちに自由に使える金額は、1000~2000元(約2万~4万円相当)にも関わらず、独身の日にはその金額の倍以上を使う人が多いという調査結果があります。
さらに、中国Z世代はインターネット上での買い物への抵抗がないという特徴があり、中国EC市場においては、絶対に見逃せない消費層と言えます。
2022年の独身の日の売れ筋商品
2022年の独身の日で、実際に売れたものを紹介していきたいと思います。
中国ECプラットフォームごとで売れるものが若干異なりますので、中国2大ECと呼ばれるタオバオと东京にて、どんなものが売れたのか見ていきます。
まず、タオバオにおける2022年の独身の日では、美顔器、ミニ洗浄機、ミニ洗濯機、おもちゃは、前年同期比で100%超を記録するほど、よく売れました。
ゲーム、アウトドア商品、ペットグッズ、高齢者向け家具用品、ジュエリーは、前年同期比20%以上増加しました。
上記の商品のうち、アウトドア商品、ペットグッツ、おもちゃ、ジュエリーの4商品は、中国EC業界では「新四大金剛(日本語意訳:新四大天王)」と呼ばれています。
この4商品は、300あまりのブランドだけでも、直近1年で億元(20億円相当)を超える売上を記録するほど、今大きくなっているカテゴリーなのです。
ちなみに、2022年独身の日における、おもちゃの売上高ブランドランキングでは、ポップマートが1位、バンダイが2位でした。
次に、东京における独身の日の売れ筋商品を見ていきましょう。
东京では、アウトドア用品、学生用タブレットパソコン、化粧品が、前年同期比で約10倍の売れ行きでした。
ペットグッツ、インスタント食品、パーソナルスキンケア機器(美顔器等)、男性用化粧品、おもちゃ、農作物は、前年同期比で100%以上の売れ行きでした。
また、东京によれば、Z世代は、中国風を好んで購入する傾向があることがわかっています。
例えば、以前化粧品カテゴリーでは、海外ブランドが圧倒的に多かったのですが、最近は中国ブランドの台頭が目立ってきています。
背景には、中国Z世代は、自国に対し強い自信や誇りを持っていることが関係しています。
ところが、ポイントは「中国風」が人気ということです。
SK-Ⅱ(エスケーツー)などの日本ブランドが、中国風のパッケージを採用して、成功している事例があり、工夫をすれば、日本ブランドでも勝ち筋は十分あることがわかっています。
中国市場を攻略するための独身の日マーケティング戦略
独身の日の歴史から見るマーケティング戦略
独身の日における中国消費者の傾向や、売れ筋の概要はわかったと思います。
ここからは、実際に、中国ECに出店しているブランド側は、どのようにマーケティング戦略を策定し、中国市場を攻略していったらよいのかを紹介していきたいと思います。
まず、タオバオにおける独身の日が、どのように発展してきたのかを見ていきましょう。
発展の歴史を見ていくことで、今後どのように発展していくのかのトレンドが探りやすくなり、それをマーケティング戦略に活かすことができるからです。
前述した通り、独身の日キャンペーンは、2009年にタオバオで実施されたのが始まりでした。
2015年には、それまで中国国内の商品だけがキャンペーンの対象でしたが、グローバルブランドも参入します。
2017年では、オンライン販売とオフライン販売を組み合わせて、キャンペーンを盛り上げることが流行りました。
例えば、リアル店舗に来くれた消費者に対し、化粧品などを試用させた後、オンラインでの購入を勧めていました。
オンラインで店舗と消費者がつながることで、顧客への再コンタクトが容易になり、リピーターを増やし、独身の日以降も継続して商品が売れるという仕組みづくりが流行ったのです。
また、ライブコマースを始めるタオバオ店舗が少しずつでてきたのも、ちょうどこの頃でした。
このライブコマースが、2020年に爆発的な伸びを記録します。
2020年の独身の日のライブコマースでは、コロナ規制の反動もあり、最初の10分で、2019年における独身の日の売上を超えてしまうほど、爆発的な伸びでした。
【タオバオのライブコマースの売上額推移(億元) 华扬联众x阿里妈妈 2021双11白皮书报告より抜粋】
また、インフルエンサーがライバーとして、大きな販売記録を達成するのも大きな話題となりました。
その後、2021年の独身の日には、5403億元(11兆円相当)の売上という最高記録を再度達成しますが、そこで流行り出した戦略は、予約販売でした。
独身の日には、大量の注文が短期間に集中してしまうため、在庫や郵便などが間に合わないという問題があり、それを緩和させるための対策でもあったのです。
2022年では、独身の日の売上額の公表が行われないという、驚きの発表があります。
「売上額の高値更新ができなかったのではないか」や「コロナ規制中でキャンペーンを楽しむ時期ではないため妥当な判断だ」などの様々なコメントが当時ありましたが、中国で最も大きな売上を見込める日であることには変わりはありません。
ここで大切なことは、時代や中国消費者のニーズなどに従って、独身の日のキャンペーン自体が変化してきたことです。
最近のトレンド
それでは、最近の中国EC市場でどのような変化があったのかを見ていきましょう。
中国EC市場の変化を知る方法としては、直近のトレンドを把握することが、最も手っ取り早いです。
最近の大きなトレンドと言えば、シーディング(中国語:种草)の重要性が増していることです。
ここでシーディングとは、SNSでのクチコミなどを通して、消費者に購買意欲を掻き立てることを言います。
日本のマーケティング戦略においても、シーディングがありますが、中国の場合、重要性の度合いが全く異なります。
中国では、食品品質事件など、企業に騙された過去がある影響で、企業が流す広告を極端に信じない傾向あり、口コミや身近にいる信頼できる人の意見を重視します。
実際、20代~30代の中国女性は、気になる商品があれば、すぐに検索サイトやECサイトで探すことはしません。
まず中国最大の口コミサイトである小紅書(RED)で評価などを確認してから、タオバオで購入するというのが一般化しているのです。
中国企業側は、シーディングの重要性を既に理解しており、艾瑞报告行业报告という中国ローカル調査会社によれば、マーケティング予算の57%をシーディングの費用としているという調査結果が出ています。
シーディングに適している中国SNSプラットフォームは、中国版TikTok抖音(Douyin)、小紅書(RED)、快手(Kuaishou、中国で二番目に大きいショート動画プラットフォーム)、bilibili(ビリビリ、YouTubeに似た動画プラットフォーム)があります。
それぞれのプラットフォームで、ユーザー層や形成されている文化などが異なりますので、自社商品との相性を見極めながら選んで、シーディングを行うと良いでしょう。
シーディング期間の長期化
もともとシーディングを行うこと自体は、以前からありましたが、シーディングの期間が長期化していることも最近のトレンドです。
例えば、2021年ごろまでは、大きなイベントが行われる数週間前に行われる広告や口コミがシーディングと呼ばれていました。
ところが、最近では、キャンペーン日から数えて、1か月~数か月前からシーディングを行う企業が増えてきています。
例えば、11月11日の独身の日であれば、10月1日から広告や口コミを広げる施策を行い始めるのです。
実際に、中国ECのNo2である京东では、10月1日~10月末頃までをシーディング時期であることを認めています。
独身の日マーケティング戦略の成功事例
倍乐生(中国ベネッセコーポレーション)
独身の日マーケティング戦略での成功事例を紹介したいと思います。
1社目は、2022年の独身の日で、タオバオの教育部門売上No1だった倍乐生(中国ベネッセコーポレーション、以下中国ベネッセ)です。
もともと中国ベネッセのキャラクターである、しまじろうは、中国語で巧虎と呼ばれ、中国でとても人気があります。
中国ベネッセは、更なる大きな売上を目指して、独身の日に焦点を合わせ、9月からシーディングを開始します。
なぜそんなに早くシーディングを開始したのかには、きちんとした理由があります。
中国ベネッセの商品を購入してくれる中国消費者の購入検討期間は、一般消費財よりも長い傾向があり、3-6か月を要していることが市場調査で分かったためです。
一方で、一旦買うことを決めたユーザーは、独身の日以降も、継続して購入してくれる傾向があります。
そのため、シーディングを早めに実行し、十分に時間とお金をかける価値があるとわかっていたのです。
結果、独身の日では、全体注文に占める新規顧客の比率が90%を超えるほど、新規顧客獲得戦略で大成功したのです。
歌帝梵(ゴディバ)
2社目は、高級チョコレートブランドで有名な歌帝梵(ゴディバ)です。
ゴディバは、7月ごろから独身の日に向けて、シーディングを開始します。
具体的には、7月頃から、新商品の展示会や、試食会などを積極的に開き、新商品の認知度を高めていきます。
同時に、ショート動画プラットフォーム上でも小さいキャンペーンを実施することで、新規顧客とコネクションを築いていきます。
これらの目的は、新規顧客にゴディバというブランドに興味を持たせることです。
そして、独身の日に、大幅な割引キャンペーンを実施することで、もともと高い価値のあるものだと理解している新規顧客が購入してしまうのです。
その結果、ゴディバは、2022年の独身の日で最も売れたチョコレートとなりました。
独身の日 中国市場を攻略するためのマーケティング戦略のまとめ
独身の日は、中国ECにおける最も大きなキャンペーンです。
売れる傾向があるものや売れ筋商品は、一定の規則性がありますが、決まりきった売り方ではなく、トレンドをつかんだうえで、マーケティングを行うことが大事です。
そのように大前提を理解してマーケティングを行うことこそが、中国市場を攻略することにつながります。
最近のトレンドを見る限りは、シーディングの重要性と長期化がポイントになります。
今から独身の日を見据えた戦略策定を行っても、早すぎることはないでしょう。
また、中国には国慶節という10月に行われるキャンペーンもありますので、合わせて検討することをお勧めします。
国慶節キャンペーンについては、下記の記事で紹介していますので、ご興味のある方はご覧ください。
国慶節マーケティング戦略:成功事例と新たなアプローチによる顧客獲得 | CRESON Media | 中国SNS動画・越境EC支援のクレソン
最後に
以上、独身の日マーケティング、中国市場を攻略するためのマーケティング戦略とその成功事例について、解説しました。
弊社は現在、中国版TikTok抖音(Douyin)・小紅書(RED)を活用した中国SNSの運用代行や、中国への越境ECの支援などのサービスを展開しております。
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