コロナ禍においてロックダウンや隔離政策を行っていた中国ですが、コロナ禍が終息し、その影響は訪日観光客の伸率に大きく表れています。
2024年1月度の日本政府観光局(JNTO)の統計によると、訪日中国人観光客は415,900人であり、2023年1月度の31,291人と比較すると1229.1%の伸率となりました。
コロナ禍前の2019年度(9,594,394人)と2023年度(2,425,000人)を比較すると、約75.7%の減少でしたが、着実にその数値が戻ってきていることが伺えます。
さらに、中国ではコロナ禍での制限を経て、個人旅行がトレンドとなっており、インバウンド事業のマーケティング方法も見直す必要が出てきています。
この記事では、訪日中国人観光客に人気な日本文化体験や、訪日中国人観光客向けマーケティング方法について、紹介していきます。
日本観光のニーズ
中国人観光客における日本観光の重要性
2024年1月度の中国におけるオンライン旅行代理店における人気海外観光地ランキングでは、日本はいずれもランキング上位に名前があがりました。
ランキング上位に日本が入ったことについて、コロナ禍の制限が解除されたことによる数値的上昇も原因ではありますが、中国人観光客にとって、日本は常に旅行先として人気のある国であることがわかります。
【各オンライン旅行代理店の人気の国ランキング、弊社独自調査による統計】
「モノ消費」から「コト消費」へ
中国人にとって日本観光がとても人気があることがわかったと思いますが、その観光消費傾向に変化が見られます。
例えば、最近では、「モノ消費」から「コト消費」への変化があります。
「コト消費」とは「体験」に対する消費活動を指します。
近年、消費者のニーズは「モノ消費」から「コト消費」へと変化しています。
一時期、「爆買い」が日本中で話題となりましたが、最近では電化製品を大量購入する訪日中国人観光客の姿をあまり見かけなくなりました。
その代わりに、浅草寺や京都の街に着物姿で写真撮影を楽しむ方や、富士山や名勝、温泉地へ行く方、人気アニメや漫画に登場する場所を訪れる方(=聖地巡礼)などが増えています。
つまり、日本文化や体験を重視する観光客が増えており、「コト消費」が主流となりつつあるのです。
2023年度の日本政府観光局(JNTO)の統計によると、娯楽などサービス費は中国(約23,000円/人)とオーストラリア(約22,000円/人)が高く、買物代は中国(約119,000円/人)が突出して高い結果でした。
訪日中国人観光客にとって、「モノ消費」に対するニーズが顕在であることが読み取れますが、同時に「コト消費」を重要視していることもわかります。
【出典:日本政府観光局(JNTO) 国籍・地域別にみる費目別訪日外国人旅行消費額】
中国人観光客の傾向は個人旅行にあり
中国政府はコロナ禍の間、中国発の日本向け団体ツアーを禁止していました。
現在では訪日団体旅行は解禁されていますが、コロナ禍の制限によって旅行者の考え方に与えた影響は大きく、現在の中国人観光客の旅行傾向は個人旅行です。
そのため、日本のインバウンド事業は「個人旅行」への対応体制を見直す必要があるでしょう。
今後、訪日中国人観光客に対する日本のインバウンド事業のアプローチ方法は、個人旅行の多種多様なニーズや情報収集経路を意識した発信が求められます。
それは、実際のデータに表れており、観光庁の「訪日外国人消費動向調査 2023年7-9月期報告書」によれば、90%以上の中国人観光客が個別手配です。
【出典:観光庁 訪日外国人消費動向調査 2023年7-9月期報告書】
訪日中国人観光客の情報収集方法
出発前(旅マエ)におけるSNSの重要性
「個人旅行」が中心の訪日中国人観光客の情報収集方法について、見てみましょう。
まず、訪日観光客が出発前(旅マエ)に情報収集をする際、役に立ったものとして上位にあげたのは、「動画サイト(35.5%)」や「SNS(33.4%)」の個人がスマートフォンやパソコン上で検索できるものでした。
日本滞在中(旅ナカ)に役立った旅行情報源についても、スマートフォンが情報源として高い数値を記録しています。
これは言語の壁によるコミュニケーションの難易度や最新情報を仕入れる目的も想定されますが、その背景にあるのは個人旅行のニーズ拡大があります。
言語が通じず、さらに身の回りに現地に詳しい方がいない環境である場合、SNSを使用した生きた情報の収集は非常に重要です。
【出典:観光庁 訪日外国人消費動向調査 2023年7-9月期報告書】
個人旅行による情報検索ツールの特徴
出発前(旅マエ)においてSNSが情報収集ツールとして重要なものであることを踏まえ、個人旅行による情報検索ツールの特徴を紹介したいと思います。
例えば、小紅書(RED)とBaiduにおける2024年2月度の統計にて、「日本」の検索数と「日本旅游」の検索数の統計を取り比較したものが下の図です。
【弊社独自調査による統計】
「日本」の検索数は、単純に日本の注目度を示すデータです。
一方、「日本旅游」の検索数は、個人旅行のニーズを確認できるデータです。
「日本」の検索数では、中国版グーグルと言われるBaiduの検索数が上回っています。
ところが、「日本旅游」の検索数の結果から、個人旅行の情報検索ツールとして、小紅書(RED)が優勢であることがわかります。
小紅書(RED)とは、「中国版インスタグラム」と呼ばれる、写真や動画の投稿・共有機能とEC機能を有するSNSです。
もともとのスタートは化粧品の口コミアプリであったため、よりリアルな商品に対するレビューやユーザー別のおすすめが写真や動画とともに発信されています。
多くのユーザーは、消費・購買行動のために小紅書(RED)で情報を集める傾向にあります。
利用ユーザーは8割女性・8割若者と言われており、特に消費・購買活動に利用されることが多いため、消費・購買意欲の高い都市部の若年層の利用が多いアプリです。
今後、日本の観光産業を長期的に成立する主力産業とするためにも、情報収集能力や処理能力、発信力を持つとされるZ世代と呼ばれる若い世代へのアプローチは重要です。
訪日中国人観光客に対してアプローチを検討する場合には、小紅書(RED)の使用は必須となるでしょう。
小紅書(RED)における検索傾向
個人旅行化が進む中国において、小紅書(RED)が重要なツールとなることは分かったと思いますが、次に重要となるのはその小紅書(RED)の使用方法にあります。
小紅書(RED)上でせっかく発信した投稿も、その閲覧数が少なければ広告宣伝効果は期待できません。
閲覧数を多くするためには、検索時に関連投稿として表示されるようなキーワードの使用が重要です。
例えば、日本旅行、東京旅行、大阪旅行の場合を考えてみましょう。
以下のような人気の検索キーワードを投稿内に使用すると、関連投稿として小紅書(RED)で上位に表示されます。
〇日本旅行関連キーワード使用数上位
〇東京旅行関連キーワード使用数上位
〇大阪旅行関連キーワード使用数上位
【弊社独自調査による統計】
特に訪日中国人観光客に対するインバウンド事業については、このようなテクニカルな内容も織り交ぜながら取り組む必要があります。
人気のある日本文化体験
日本情緒を体験する(伝統文化体験)
小紅書(RED)では、日本文化や体験のコンテンツも大変人気があります。
ここで、中国人に人気のある日本文化体験を3つ紹介しましょう。
- 日本情緒の体験(伝統文化体験)
- アニメ文化を体験(アニメツーリズム)
- 本質を理解する体験(アドベンチャーツーリズム)
まず、日本情緒の体験(伝統文化体験)とは、日本の伝統文化を体験してもらうことを指します。
東京は日本を代表する都市であり、訪日外国人観光客向けのサービスが他地域に比較して充実しています。
例えば、日本の歴史を五感で感じることができることから、浅草寺の雷門は高い人気があります。
さらに、雷門を潜ると、統一電飾看板で彩られた仲見世商店街が広がり、日本情緒を感じることのできるスポットです。
日本の国技と呼ばれる相撲も人気があります。
試合観戦はもちろんですが、ちゃんこ鍋を食べる体験ができる内容のものもあり、いずれも日本情緒を体験できるコト消費として人気があります。
【コト消費として日本文化体験が人気、小紅書(RED)より】
また、日本情緒を体験するものとして、和菓子や茶道体験が大変人気です。
例えば、訪日外国人観光客専用の茶道教室が出てきており、日本の伝統文化に対するコト消費のニーズが高いことが伺えます。
【訪日外国人観光客向けのサービスが拡大、小紅書(RED)および専門店ウェブサイトより】
京都には多くの着物レンタルショップがあり、なかには日本髪のかつらをセットし、舞妓独特のメイクを施してくれる店が多いです。
また、写真撮影はセットになっていることが多く、さらにその格好のまま京都の街中を歩けるサービスがあります。
これらは京都に来なければ受けられないサービスであることから、舞妓体験を目的として京都を訪れる訪日中国人観光客も多いです。
【京都の舞妓、小紅書(RED)より】
アニメ文化を体験する(アニメツーリズム)
アニメツーリズムとは、アニメやマンガの作品の舞台やゆかりの地を訪れる観光行動を指し、聖地巡礼と呼ばれることがあります。
日本のアニメやマンガは、日本国内のみならず、海外でも人気があります。
そのアニメやマンガの舞台となった土地や建物を訪れる「アニメツーリズム(聖地巡礼)」は、多数のファンが訪れることで巨大な経済波及効果を生み出し、アニメ聖地を持つ地域にとって重要な観光資源です。
例えば、『君の名は。
』は、世界135の国と地域で配給された大ヒット作です。
その舞台となった地域を巡礼するためにその地域を直接訪れた観光客により、経済波及効果が生まれています。
さらに、映画『スラムダンク』の上映を受け、アニメ内に登場する江ノ島電鉄・鎌倉高校前の踏切が、訪日中国人観光客を中心とした外国人観光客の観光スポットとして人気を博しています。
【江ノ島電鉄・鎌倉高校前の踏切】
【上海市内のショッピングモールにて撮影】
本質を理解する体験(アドベンチャーツーリズム)
本質を理解する体験(アドベンチャーツーリズム)とは、アクティビティ・自然・文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行・観光を指します。
日本のアドベンチャーツーリズムは、知床半島のトレッキングや飛騨高山白川郷の散策、山伏修行体験、座禅体験などの地方での体験が中心です。
東京や大阪に観光客が密集することによるオーバーツーリズムの課題を解消し、かつ地方に経済波及効果をもたらすといった効果が期待されています。
特に、日本に何度も来たことがある富裕層や親日観光客を中心に、ニーズが拡大している分野です。
今後の訪日中国人観光客の滞在日数も加味し、今後高い成長が見込まれるものとされています。
ここでは、中国人に人気のあるアドベンチャーツーリズムを3つ紹介しましょう。
○知床半島のトレッキング
知床半島は世界遺産に登録されており、多くのトレッキングコースがあります。
美しい半島の自然を楽しみながら、ヒグマやエゾシカ、野鳥など北海道ならではの野生動物たちや季節の植物に出会うことができます。
また、冬季になると「流氷ウォーク」という貴重な体験ができます。
訪日中国人観光客の方々に非常に人気があり、小紅書(RED)上でも多くの投稿が見受けられます。
流氷ウォークは、専用のドライスーツを着用して、海面に浮かぶ流氷上を歩行する特殊な体験ツアーです。
流氷の上を歩くことがメインですが、ドライスーツは浮き輪として利用でき、海に浮かぶなどのんびり流氷の世界を眺めることができます。
【季節限定の流氷ウォークも人気、小紅書(RED)より】
○飛騨高山白川郷の散策
世界遺産に登録されている「合掌造り集落」は、大小100棟余りの合掌造りが数多く残り、今でもそこで人々の生活が営まれている集落として知られています。
「泊まる」、「食べる・買う」、「観る・楽しむ」、「ツアー・アクティビティ」の4分野から構成される観光要素を持ち合わせる白川郷は、訪日外国人観光客から非常に人気があります。
【アドベンチャーツーリズムの要素を満たす観光地、一般社団法人 白川郷観光協会より】
【アドベンチャーツーリズムの要素を含めた投稿、小紅書(RED)より】
○出羽三山の山伏修行体験
山形県は、自然豊かな環境や温泉、スキーなど観光資源が豊富で、訪日外国人にとって人気のある都道府県です。
特に、出羽三山と呼ばれる羽黒山、月山、湯殿山は、修験の山として信仰の対象であり、これらの山伏修行を体験できる「山伏体験塾」は訪日外国人観光客に高い人気があります。
その人気は、アメリカ大手テレビ会社CNNウェブドキュメンタリーチャンネルの取材に取り上げられたほどです。
山伏修行は、山に伏す者として山中を巡り、厳しい修行を通じて自らの力を高め、人間の潜在的な能力を引き出す存在です。
修行者は山の自然と信仰の結びつきを体現し、感謝の精神を育むことが魅力とされています。
また、訪日外国人観光客向けに、山形県国際交流センターや地元企業が連携して、多言語対応体制を整えており、訪日外国人観光客の参加満足度は高いです。
【山形の山伏修行体験、小紅書(RED)より】
最後に
以上、訪日中国人観光客に人気な日本文化体験や、訪日中国人観光客向けマーケティング方法について、解説しました。
弊社は、日本と世界を更に近づけるために、訪日外国人向けのインバウンド事業や、日本製品を海外に展開するアウトバウンド事業を展開しています。
インバウンド事業においては、訪日外国人の富裕層やVIP向けに豊富なコンテンツを全てオーダーメイドで企画・制作からサポートしております。
ぜひご気軽にご相談ください。
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